WHIPで3位につけ、防御率でも高水準 岩隈久志の本当の凄さとは

もう一つの凄さ“割り切れる強さ”

 そして、もう1つ、岩隈の凄さを挙げたい。それは、割り切れる強さだ。メジャーの水に合ったのは、実はこの部分が最も大きい。

 もう1度、前述のツインズ戦での一場面を挙げたい。3-0で迎えた8回のことだ。1死一塁でジョシュ・ウィリンハムを空振り三振に仕留めると、マイク・ウェッジ監督が岩隈から左腕チャーリー・ファーブッシュへの交代を告げた。次が左打者のジャスティン・モーノーだったことが理由だが、見る人によってはどうにも納得できない采配だったはずだ。

 というのも、この時点で岩隈の投球数は98球。この回まで任せるには、全く問題ない数字だった。しかも無失点。日本なら「お前に任せた」となる場面であり、むしろ完封すら求められるだろう。結果としてファーブッシュがしっかりと後続を抑えたが、走者を返されてしまえば、岩隈に自責点も付くところだ。2点差となれば、試合の流れも変わっていたかもしれない。

 それでも、本人は淡々としたもの。「さすがに続投したかったのでは?」と聞かれると「特にないですよ。しっかり自分のピッチングが出来ていましたし、役割を果たすことが出来たので。チャーリーのことをもちろん信じていましたし、何とも思わなかったですね。いい勝ち方ができたと思います」と笑みすら浮かべて答えた。

 先発、中継ぎ、抑えと明確な分業制を敷くメジャーにおいて、先発完投を求められてきた日本人の先発投手(特にエース級)がこの考えを受け入れるのは、実はとても難しい。その結果としてリズムが崩れていくこともあるが、岩隈にはそれがない。登板日に先発としての役割を果たし、中4日のローテーションを守り抜く。いつも万全の状態でマウンドに上がる。そのために「やるべき事をしっかりやっていきたい」と、むやみに完投などを求めて無理しすぎることがない。故障してしまえば、それこそチームに大迷惑をかけるからだ。

 日本時代の岩隈は、球数が少なくても降板を申し入れることもあり、淡泊とも見られがちだった。しかし、ローテーションを崩さず、安定したピッチングを続けることが先発投手の最大の役割とされているメジャーでは、岩隈のチームへの貢献度は極めて高い。

 ヤンキースの黒田博樹は「こっちに来てから特に完投へのこだわりはなくなった。アメリカの野球では、完封は自己満足に近い部分があると思う」と話すが、日本ではドライとも言える考え方が岩隈には初めからあった。要するに、メジャー向きの投手だったのだ。

 このまま1年間ローテーションを守り続ければ、岩隈のアメリカでの評価はさらに上がるだろう。ひょっとしたら、メジャーで最終的にダルビッシュよりも凄い成績を残してしまうのでは…。今年のピッチングを見ていると、そんな期待すらわいてくる。

【了】

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