マー君にも朗報? 黒田の残留がヤンキースに与える付加価値

ヤンキースのローテーションに日本人が二人?

 黒田の今季成績は、最終的に11勝13敗と黒星が上回った。ただ、防御率3・31はリーグ11位で、8月中旬までは2点台前半でトップに立った時期もあるなど安定感は際立った。確かにシーズン終盤に崩れはしたものの、援護に恵まれ、救援陣に白星を消される試合がなければ、あと5勝は上乗せされていただろう。当然、そうなれば黒星も減っていたはずだ。黒田がいなければヤンキースは早々にプレーオフ進出争いから脱落していた。

 エースのC・C・サバシアが不調の中、しかも援護に恵まれない試合が多い状況下で、「自分まで崩れれば終わり」という重圧を超名門球団で背負い続けたことは、終盤戦に心が折れたように見えた1つの原因だろう。あの状況でテンションを保ち続ければ、精神面の疲労は半端ではないからだ。どんな投手でも崩れてもおかしくない状況だった。

 このことをヤンキースは十分に理解し、評価している。キャッシュマンGMは「彼はファンタスティックだったし、我々が求める全てのことをやってくれた。彼を保有できたことは幸運だったし、もっと長くうちでプレーしてほしいと願っている。戻って来てくれることを願っている。確かに彼には色々な選択が可能だろう。日本に戻ることも、他の(メジャー)チームに移籍することも。本当に素晴らしい選手だからね。有能な選手には、色々な選択肢があるもの。これまでも我々にとって偉大な存在だったし、この先も1年間、我々のチームにいて欲しい。どうなるか、見てみるしかないね。彼は色々な選択肢を手にしているのだから。彼が現役を続けたいのかどうか。どの国で投げたいのか。彼は才能に恵まれている。だから、どうなるのか待つしかない」と熱烈なラブコールを送っていた。

 また、来季に関していえば、ヤンキースが黒田を残留させることには、さらに大きな付加価値がある。それは、獲得を狙っている楽天・田中将大の「先生役」として期待できることだ。新たなポスティングシステム(入札制度)では、選手が複数球団と交渉することが可能になりそうだが、仮に争奪戦に勝って獲得にこぎ着けた場合、田中がいかに早くメジャーに順応できるかが大きな課題となる。少なくても、1年目はあらゆる違いに苦労することになるだろう。ただ、黒田のようにメジャーで成功を収めた選手が近くにいれば、負担は大きく軽減される。日本人が1人いるだけで全く違うはずで、黒田は人間性も素晴らしく、田中にはプラス要素しかない。チームメートとなれば、早々に師弟関係が出来上がるだろう。

 しかも、米メディアで紹介される田中のスカウト評は「ダルビッシュのような圧倒的なボールはないが、投球術を心得ていて、黒田のように闘争心がある」といったものが多い。「黒田がいい比較対象になる」という評価もある。黒田は渡米直後、日本で剛球投手としてならした自分のストレートが通用しないことを受け入れ、微妙に変化するシンカーを軸とした投球スタイルに変更した。同じような「変化」が、田中にも必要かは分からない。ただ、メジャーで苦しみながらもヤンキースのエースと呼ばれるほどの地位を築き上げたベテランのアドバイスは、今後の田中にとって大きな財産となる。

 地元紙 ニューヨーク・ポストによると、ヤンキースはサバシア、黒田、イバン・ノバ、田中の4人で先発ローテを形成し、5番手はキャンプで若手を競わせて決める方針だという。ヤンキースの先発ローテーションを日本出身の2投手が占めるという、日本人にとっては「鳥肌もの」の状況が生まれるかもしれない。名門球団が抱く黒田への期待は、来季も非常に大きい。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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