ノムさんも認めた「努力の天才」鉄平 トレードで復活なるか

楽天の8年間は自分の野球人生そのもの

 バットを振る――。これは鉄平の原点でもある。高校時代、名門・津久見高の土谷鉄平は「大分のイチロー」と呼ばれる有名人だった。通算打率は5割を超え、1イニング2本塁打、1試合9打点などといった超人的な記録も残している。それでも、努力を怠ることはなかったという。

「全体練習が終わった後に、寮でずっと素振りをしていました。ほぼ毎日、日付が変わるまでやっていましたね。疲れすぎて、終わってから靴下を脱ぐ途中で寝ていたこともあるんですよ。でも、練習する習慣、スイングする態度、長くバットを振っている感覚というのは、あの頃に相当付いたと思います」

 そして、努力を重ねるほど、イチローに例えられることに違和感を覚え始めたという。

「イチローさんと言われるのは、高校の時はうれしかったですよ。でも、プロになると、イチローさんがどれだけすごいか実感が湧きます。とんでもない話ですよ。今(プロに入ってから)は恐れ多すぎてうれしくないです」

 同じように天才と呼ばれるイチローが、実は陰でどれほどの努力をしているのかが、実感として湧いてくる。数え切れないほどバットを振った者にしか分からない感覚なのだろう。鉄平には、それだけの積み重ねがあるのだ。

 最近3年間は、打率が2割台前半をさまようなど苦しんだ。たゆまぬ努力を重ねて作りあげた精密機械のような打撃は、わずかな狂いを修正できずにいる。だからこそ、今回のトレードはプラスに働くに違いない。中日から楽天に移籍したときのように、新天地で定位置を奪うために、再びガムシャラにバットを振る。その先に、間違いなく答えが見えてくるはずだ。

 19日の記者会見で、楽天での8年間を「僕の野球人生そのもの」と表現した鉄平は「心機一転、頑張りたい。環境が変わってうまくはまればキャリアハイの可能性もある」と決意を新たにした。

 繰り返しになるが、鉄平の活躍を望んでいるのは、オリックスファンだけではない。楽天ファンも、あの芸術的なバッティングを再び見られることを、遠い東北から願っている。その誠実な人柄に触れた人間なら、誰もが鮮やかな復活劇を信じたくなるのだ。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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