巨人から広島へ 一岡竜司投手が秘める先輩への感謝の思い

捕手・阿部慎之助へのリスペクト

 広島がFA移籍した大竹寛投手の人的補償として指名したのは、巨人入団2年目の一岡竜司投手だった。179センチ、78キロと野球選手の中ではさほど大きくはない。だが、22歳の右腕はホップするようなストレートを投げ込む。松田オーナーは「いい選手を獲得できた。ウチは1軍でプレーするチャンスはあると思う」と喜んだ。カープは左腕の公文克彦と最後まで悩んだというが、将来性を買い、先発、中継ぎ、抑えもできる一岡を選んだ。

 一岡という投手はストレートを軸に、フォークも武器とする。テークバックが小さいため、球の出どころが見えにくい。最近ではシュート系の球を覚え、右打者の内角を強気にえぐる投球を目指している。通算13試合で0勝0敗ではあるが、今年も中継ぎとして、ピンチを抑える場面もあり、このまま巨人にいれば、将来、高い確率で、“勝利の方程式”の一員として活躍できていたはずだ。

 その一岡にとって転機となった出来事がある。ある登板でのことだ。

「ピンチでフォークボールを投げた時、ストライクゾーンから大きく外れるようなワンバウンドの球を投げてしまったのに、キャッチャーの阿部(慎之助)さんは、右腕一本でそれを止めてくれたんです」

 その場面でボールに必死に食らいつき、前に落としてくれた阿部の姿に、一岡は『どんなボールでも俺は受け止めてやる。だから、ビビらずに思い切って投げてこい!』というメッセージを受け取った。

 そのフォークボールで3ボール2ストライクとカウントを悪くしてしまったが、一岡は萎縮しなかった。たとえ、ボール球になっても阿部さんがきっと何とかしてくれる――。そんな強い信頼感が芽生えたからだ。

 結果、打者に対して思い切り投じたストレートで空振り三振に仕留め、無失点に抑えた。どんな状況でも臆することなく投げ込むことの大切さを、一岡は学んだ。その日から捕手・阿部へのリスペクトは始まった。

 一岡には、マスク越しの阿部からのメッセージが確かに聞こえていた。今年からはその頼れる女房が対戦相手となり、恐怖のスラッガーへと変わる。だが、一岡はもう決めている。あの時、教えられた思い切り腕を振ったストレートを、阿部に対して強気に投げ込むことを。巨人から広島へと活躍の場を移す22歳は、偉大な先輩への感謝の気持ちを胸に、第2の野球人生を歩んでいく。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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