スタープレーヤーたちの計り知れない影響力 グラミー賞最優秀楽曲賞受賞「Royals」誕生の秘話とは

野球選手が人の人生に与える影響

 ここ数週にわたり、メジャー各球団がそれぞれにファンイベントを開催している。カブスの場合、シカゴのダウンタウンのど真ん中に位置する高級ホテルのシェラトンを舞台に3日間にわたり、開催されるという豪華さ。チケットは3日間で60ドル。シェラトン宿泊パックも用意され、1部屋につき1泊200ドル掛かるが(家族4人で宿泊可)、遠くはカリフォルニアから、何千人という筋金入りのファンが寒いシカゴまで巡礼に訪れる。

 価値はある。監督、コーチや現役選手はほぼ全員が参加。さらに、球団史を彩った往年の名選手が参加するのだが、今年は殿堂選手ビリー・ウィリアムスやファーギー・ジェンキンスらの他、デレク・リーやマーク・プライアーら記憶に新しいOBも姿を見せた。

 イベント中に彼らがファンと交流する姿を見て思うのは、野球選手とはいかに大きな存在であるか、ということ。ファンの中には感激のあまり涙を見せる人もいれば、20年も前にキャッチしたファウルボールを持ってくる人もいる。初めてサインをもらった日の感動を、興奮しながら選手本人に伝えるファンの姿を見ると、選手が何気なくとる一挙手一投足が、本人の意思とは関係なく、ある人の人生に大きな影響を及ぼすことを実感せずにはいられない。

 さて、先日26日にアメリカでは今年のグラミー賞が発表された。米音楽界では最も権威があるとされる賞で、今年はバイオリニストの五嶋みどりさんが最優秀クラシック・コンペディアム賞を受賞している。主要4部門の1つである最優秀楽曲賞に選ばれたのは、ニュージーランド出身17歳の歌姫Lorde(ロード)が歌う「Royals」だった。この曲名を見てピンとくる人がいるかもしれない。実は、この曲を制作する際、Lordeがインスピレーションを受けたのが、MLBカンザスシティ・ロイヤルズの英雄ジョージ・ブレットの写真だったという。

 昨年9月、音楽専門局VH1のインタビューを受けたLordeは、ヒット曲の制作秘話を打ち明けた。

「曲を書こうとアイデアを集めている時に、たまたま手に取った昔のナショナル・ジオグラフィックに、ある野球選手がファンに囲まれてサインしている写真が載ってたの。その野球選手のシャツに書いてあった文字が『Royals』。目に飛び込んできた、この文字がすごくかっこよかったの」

 1976年7月号に掲載されたブレットの写真は、カメラマンのテッド・シュピーゲル氏が撮影したもので、ナショナル・ジオグラフィック誌によれば、シュピーゲル氏もこの偶然に驚いているという。Lordeは先のインタビューの中で、王室(Royals)は魅力的で深い興味を引かれるとともに、500年前の王族はロックスター的存在だった、という持論を展開した。この話を受け、シュピーゲル氏はこう言っている。

「ジョージ・ブレットも、あの年代ではスポーツ界のスターだった。1976年にア・リーグ打率王になり、1999年には殿堂入りしたんだから」

 2月の声を聞けば、すぐに2014シーズンが始まりを告げる。現在、ロイヤルズで副社長を務めるブレットも、特別コーチとしてユニホームを身にまとい、キャンプ地アリゾナ州サプライズに姿を現すはずだ。思わぬところで、アメリカから遠く離れた南半球に住む17歳の女の子が制作したグラミー賞受賞曲に影響を与えたことをどう感じているのか、直接本人の思いを聞いてみるのが楽しみだ。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

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