超美技の裏にあった“究極の選択” 「一塁・ベルトラン」の誕生でイチローの定位置奪取は実現するか

4回の時点で、1塁を守れる選手がいない緊急事態

 そんな状況の中、ベンチスタートのイチローに出番が回って来たのは4回だった。1点リードの1死1、3塁の場面でサードゴロを打ったセルベリが、ダブルプレーを阻止しようと一塁まで懸命にダッシュ。すると、一塁を駆け抜けたところで右太もも裏を押さえて転倒した。肉離れを起こしたことは、誰の目に見ても明らかだった。

 判定はアウトだったものの、ジラルディ監督がチャレンジを要求。結果としてセーフとなり、三塁走者の生還は認められたため、セルベリの決死のプレーは報われた。そして、ジーターとロバーツが起用できない状況の中、セルベリの代走には野手では唯一の控えだったイチローが出場。ただ、この状況は大問題だった。

 出場している選手の中で、すでに内野を守れる選手はいなかった。そして、次の回から誰が一塁を守るのかが、焦点となったのだ。ヤンキースタジアムの記者席でさえも、その議論で騒然となったほどだ。

 ベンチのジラルディ監督はベルトランとイチローに候補を絞り、「プロで一塁を守ったことはあるか?」と尋ねた。

 2人の答えは共に「ノー」。すると、かつて外野手としてゴールド・グラブ賞にも輝いたことのあるベルトランに一塁を任せることを決めた。指揮官は、この選択について試合後にこう説明している。

「彼の方がビッグターゲットだからね」

 送球を受ける一塁手として、体の大きさを重視したというのだ。

 候補に挙がったイチローは、米メディアの取材に対して「僕ら2人を見れば、彼の方がいいオプションだという理由が分かるはずだ。もし一塁を守れと言われていたら、僕も足が痛いと言おうと思っていた」と通訳を介して冗談交じりに話し、爆笑を誘ったという。

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