「松ヤニ使用反対」を唱える選手がほとんどいない大リーグ その“常識”とルール改正の可能性を探る

興味深い、現役選手たちの反応

 ここで1つ興味深いのが、ピネダ騒動を受けた現役選手の反応だ。そのほとんどが、ルール違反はしてはならない、という前提条件を踏まえながらも、「誰でもやっている」「今回はあからさま過ぎた」「打者はバットのグリップに使っているのに」「すっぽ抜けた速球が体に当たらないための措置なら構わない」というもので、「松ヤニ使用反対」を唱える声はほとんどない。

「公然の秘密」が改めて公になった事実を受け、MLBコミッショナーのバド・セリグ氏は、AP通信の取材に「今シーズンが終了したら、もう一度ルールを見直さなければならないだろう」と話し、検討事項にすることを約束した。

 そもそも、松ヤニの使用が禁止されているのは、ボールの滑り止めという目的ではなく、ボールの変化を増す目的で使うことを防ぐためだ。紙ヤスリでボールに傷を付けたり、つばをつけたりすることで、ボールの変化は大きく変わる。投手と打者の勝負を公平にするためにも、必要なルールとされている。

 打者の安全を守る意味でも、現行ルールを変えるべきではない、と主張するのが、MLB副会長を務めるジョー・トーリ氏だ。ヤンキースを12年率いた名将は、ESPNの取材にこう答えている。

「ボールが滑って、打者に当てたくない気持ちは分かる。でも、ボールが長く指先に掛かれば、沈んだり、カットしたり、多彩な変化をするようになる。ボールがどんな動きをするか分からずに投げたら、それこそ怪我をする元になりかねない。松ヤニを認めるのであれば、それは滑り止めだけに限らなければならないが、それは難しいだろう」

 プレーオフ出場枠の拡大であれ、ビデオリプレーの導入であれ、変化に対して柔軟な対応を見せてきたMLBが、今回はどんな答えを導き出すのか。シーズン終了後の議論が待たれるところだ。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY