30回目の甲子園は「鬼」から「仏」へ 現代っ子を導く70歳ベテラン監督の手腕

「今の子たちは褒めて伸ばしてあげたい」

 目の前に広がる甲子園のグラウンドを見つめると、大垣日大(岐阜)の阪口慶三監督(70)の体には気力がみなぎった。

「30回目の甲子園になるな。今でも胸が躍る気持ちですよ」

 かつては「鬼の阪口」と呼ばれ、愛知の強豪・東邦高校を率いた。1967年に就任し、77年夏に準優勝、89年のセンバツで優勝。甲子園の歴史にその名を残してきた。2004年を最後に大垣日大に移ってからも、07年のセンバツで準優勝。チームが変わっても、存在感は際立っている。

 春夏を通じて30回以上、甲子園を指揮するのは福井商業で36度の出場を誇る北野尚文氏、智弁学園(奈良)、智弁和歌山で34度の高嶋仁氏に続き、3人目の偉業となる。通算勝利数は36勝。あと1勝すれば、徳島・池田の故・蔦文也監督の37勝に並ぶ。(通算勝利1位は高嶋監督の63勝)。阪口監督は36個の白星を挙げるうちに、だんだんと表情が鬼から仏のように変わってきた。東邦で24回、大垣日大で6回、計30回目の聖地にやってきた今年はさらに優しい顔をしていた。

 夜中までの練習やいつ終わるかもわかならい素振り……。鬼と呼ばれる監督時代のエピソードは尽きない。しかし、今のチームでは怒気に満ちた表情は見せない。指導方法は時代とともに変わっている。「今の子たちは褒めて伸ばしてあげたい」という思いにもなった。

 世間は体罰やパワハラという言葉が飛び交うようになり、良い面も悪い面もあった愛のムチはもう高校生には通用しない。求心力は低下する一方。高校野球の指導者の苦労も絶えない。厳しさだけでやる野球はもう時代遅れなのかもしれない。

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