今季限りで引退の稲葉篤紀 日本ハムを支えたその特異な成績推移

読めなかった30代半ばからの“中心打者化”

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稲葉篤紀のRCAA(得点創出力の平均との差)の推移 全キャリア

 そして06年、ファンの目からは正直なところ「唐突に」ファイターズの優勝がやってきた。夏場までは「いつ優勝争いから脱落するんだろう」などという世をすねた目で見ていたものだ。(10年近く経った今となってはこの感覚すら懐かしいものになってしまった)

 しかし、ファイターズはその後も強かった。この頃新庄は体調が万全ではなく、稲葉が多くの試合で代わって小笠原・セギノールの後ろを打った。チームの好調に連動するような形で打ち続け、OPS.878、26本塁打と、ヤクルト時代のベストシーズンに匹敵するパフォーマンスを見せた。

 翌07年には小笠原が巨人に移籍し、代わりの役割を稲葉が務める。チームの優勝に加え首位打者も獲得。稲葉の06、07年の.878、.892というOPSはそれぞれリーグ8位とリーグ3位。ともに優勝チームの中軸を支えるにふさわしい打撃である。この後稲葉のOPSは09年まで続けて.880を超え、またヤクルト時代とは異なり、ほとんど欠場の見られないシーズンが続いた。

 06~07年に稲葉が創出した得点の平均との差(平均的な打者以上に打ってチームにもたらした利益)はRuns Created評価(RCAA)で61.2点、Extrapolated Runs評価(XR+)で54.9点にのぼる。どちらの評価でもヤクルト時代の10年間の合計よりも大きい。

 その後も中心的な選手として活躍を続けた稲葉は守備力にも定評があった。5回を数えるゴールデン・グラブ賞獲得のほか、守備指標でも極めて優秀であった形跡を残し続けている。40歳を超え、さすがに衰えが見え始め引退に至ったわけだが、少々珍しい成績推移を見せた、忘れてはならない選手だろう。セイバーメトリクスファンにとっては、分析に対するさらなる意欲を湧かせてくれる選手でもあった。

【了】

道作・DELTA●文  text by DOUSAKU DELTA

道作 プロフィール

北海道札幌市在住。1980年代に『TOTAL BASEBALL』やビル・ジェイムズの著作などを読み定量的な野球分析に関心を持つ。以来NPBデータを独自の視点で分析している。日本でのセイバーメトリクス分析では草分け的存在。

DELTA プロフィール

DELTA  http://www.deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート3』が4月5日に発売。

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