守備で減らした失点は21年間で243点 球史に刻まれるべき名手、金子誠

二塁手を守り続ければ、歴代最高レベルに到達した可能性

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金子誠の「守備で減らした失点(平均比)」の推移

 そして金子と言えば何といってもその特性は守備になるだろう。1996年から01年まで二塁手、02年から2012年まで遊撃手としてファイターズ内野陣を支えた。

 特に二塁手として活躍を続けた最初の6年間は、刺殺、補殺数などから算出する守備指標のRRF(Relative Range Factor)(注2)を用いて計算すると、金子は守備のみで平均的な選手に比べ約172得点分の貢献を果たしたと評価され、これは歴代最高レベルの数字だ。

 なお、守備についてはリプレイスメント・レベルは平均と同じレベルに設定されることが多い。代替可能選手の多くは若手であり、身体能力上の有利があることを考えると、打撃に比べ高く設定されるのは納得できるかと思う。

 同じ評価の方法で二塁手のNPB史上最高値を残しているのが60年から80年にかけて、中日でプレーした高木守道で約205得点。30歳を過ぎると守備での大きな貢献は難しくなることを考慮しても、金子が二塁を守り続ければ史上最高の数字を記録する可能性は十分にあった。

 そして02年のコンバート後、遊撃手としては当初はなかなかプラスの数値を記録できなかったが、徐々に数値は上昇し、08年と09年にはリーグ最高値をマークしている。

 12年オフには、DELTA社がRRFとは別アプローチで守備能力を評価する指標UZR(Ultimate Zone Rating)(注3)の数値を算出したが、この指標では773イニングを守った金子は、同じイニングを平均的な選手が出場した場合に比べ約10点を防いだと評価された。この年のファイターズの総失点は450だったことを考えれば、その働きの程度はだいたい見当がつくと思う。

 守備指標には誤差がつきもので、単年の数値のみではなく数年間の推移を見る必要がある。だが、過去のRRFを用いた評価での高い値での推移から考えると、12年のUZRは額面通りに受け取ってもよさそうである。

 二塁手時代、遊撃手時代を合わせた金子が減らした失点はRRFを用いた計算だと243.5に達する。守備で200点を超える貢献を果たした内野手は吉田義男(53~69年・阪神)、高木、小池兼司(61~74年・南海)、小坂誠(97~10年・ロッテ他)、そして金子の5名しか存在しない。長いNPBの歴史上でも際立った守備の名手であることの証左である。

(注1)リプレイスメント・レベルの算出には様々な手法がある。現在、DELTAではNPBのリプレイスメント・レベルを平均の88%の成績を残せるレベルと設定している。

(注2)RRFは刺殺や補殺、さらに所属チームの守備能力の程度などから算出する。打球の位置情報に関するデータが得られない時代の守備能力の評価などでよく用いられる“レンジ系”の守備指標。RRFは「平均的な選手の何倍アウトを奪ったか」という数字として算出されるが、今回のテキストではその数字から余計に奪ったアウトの数を導き出し、さらに失点数に換算している。

【参考】守備指標の話 RFとRRF
http://baseballconcrete.web.fc2.com/alacarte/fieldingindex.html

【参考】RRFについて
http://homepage2.nifty.com/kappino/baseball/defence/rangefactor/080117.htm

(注3)UZRはグラウンドを網目状に区分し、そのゾーンごとに選手の打球の処理状況を調べ守備能力を評価する。刺殺や補殺の数などは直接用いない“ゾーン系”の守備指標。

【了】

道作・DELTA●文  text by DOUSAKU DELTA

道作 プロフィール

北海道札幌市在住。1980年代に『TOTAL BASEBALL』やビル・ジェイムズの著作などを読み定量的な野球分析に関心を持つ。以来NPBデータを独自の視点で分析している。日本でのセイバーメトリクス分析では草分け的存在。

DELTA プロフィール

DELTA  http://www.deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート3』が4月5日に発売。

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