2年目の大躍進 データで見る大谷翔平の進化の理由【投手編】

際立つ大谷の影響力、日本ハムの最下位→Aクラス復帰にも多大な貢献

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大谷翔平のパフォーマンス――推定失点率と阻止した失点

 ここまで確認してきた「奪三振」「与四死球」「被本塁打」、さらに「どのような打球を打たせたか」の数字を総合して、9イニング当たりで見込まれる(注1)推定失点率を示す指標true Run Average(tRA)(注2)を求めると2.66となる。これはリーグ平均の3.97を大きく引き離している。さらに控えレベルの先発投手のレベル=リプレイスメント・レベルの失点率5.52(注3)との比較ではさらに差が広がる。

 2013年は控えレベルの先発投手より若干良い程度で、投球回数も限られたため、阻止した失点の総量で貢献を表すと「全登板を通じ、リプレイスメント・レベルの先発投手に比べチームの失点を4.4点減らした」という限定的なものになる。もし昨年の大谷のすべての登板をリプレイスメント・レベルの先発投手が代わって投げたとしても、日本ハムの失点は4点強増える程度の影響しかでなかったと見込まれる。

 2014年はリプレイスメント・レベルの先発投手の推定失点率5.52に対して大谷は2.66。9イニングで3点近く失点を減らせる投球だったと評価される。投球イニングも155.1イニングと前年を100イニング近く上回るため、貢献を阻止した失点の総量で表すと、リプレイスメント・レベルの先発投手に比べ49.2点もの失点を減らしたことになる。

 このレベルの投球は、リーグでも一握りの選手しか達成できないハイレベルなものだ。パ・リーグで大谷を上回るのは、金子千尋や則本昂大(楽天)の2人しかいない。そのような投球を打者との二刀流に挑みながら実現できた事実には本当に驚くしかない。

 大谷の登板をすべてリプレイスメント・レベルの先発投手が代わって投げたとすれば、日本ハムの失点は50点近く増えていた計算になる。日本ハムの最下位からのAクラス復帰に、大谷の貢献が大きく寄与していたのは間違いないだろう。

 次回は打者・大谷と二刀流・大谷の影響力について触れる

(注1)同じイニングを投げ、全く同じ内容の投球をした投手がいたとしても、失点は同じにならない。味方の守備力ほか様々な影響次第で、多くの失点を喫し失点率が上がる投手もいれば、思いのほか失点しない投手もいる。そうした揺れが生じる実値の失点率に対し、ここで言う「見込まれる失点率」とは「これだけの三振を奪い、これだけの四球を出し、これだけの本塁打を許し、これだけのゴロ、フライ、ライナーを打たれた場合、平均的にはこの程度の失点を喫するだろう」という推定値を意味する。

(注2)tRA(true Run Average)守備の関与しない与四死球・奪三振・被本塁打という3つの項目(Fielding Independent Pitching:FIP)に加え、どのような打球を打たれたかも投手の責任範囲と定義して、守備の影響から独立した失点率を推定・評価する指標。投手を守備力のレベルから独立して評価するという点についてはFIPと同じだが、打たれた打球の種類にまで踏み込むことで、より実態に近い投手の失点阻止能力を捉えられる。なお、今回の値は球場ごとの打撃成績の傾向の影響を考慮し補正を行っている。

tRAの計算式(2014年スケール)
{(0.286×四球+0.308×死球-0.106×奪三振+1.366×被本塁打+0.043×ゴロ-0.119×内野フライ+0.146×外野フライ+0.308×ライナー)÷(奪三振+0.743×ゴロ+0.290×ライナー+0.993×内野フライ+0.669×外野フライ)×27}+定数×球場の影響

定数=リーグ平均失点率-{(0.286×四球+0.308×死球-0.106×奪三振+1.366×被本塁打+0.043×ゴロ-0.119×内野フライ+0.146×外野フライ+0.290×ライナー) ÷( 奪三振+0.743×ゴロ+0.290×ライナー+0.993×内野フライ+0.669×外野フライ)×27}

(注3)どのチームでも、いつでもレギュラーの代わりに出場させることのできる代替可能な選手のレベルのこと。ポジション別に計算される。(参照 https://full-count.jp/2014/11/26/post6574/

【打者・総合評価編はこちら】

【了】

DELTA・岡田友輔・秋山健一郎●文  text by DELTA OKADA,Y. AKIYAMA,K.

DELTA プロフィール

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート3』が4月5日に発売。

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