【小島啓民の目】広岡達朗氏が打ち崩した「基本」の概念 練習で挑戦&失敗することの重要性

「試合に必要な技術は全て練習を行え」

 こんにちは。小島啓民です。私はこれまで子供たちだけではなく、野球の指導者とも話をしてきました。「練習は試合に勝つために行うもの」とよく言われます。それによって「ミスを犯さないように」と無難に練習を行っている選手の姿もよく見ます。

 ですが、練習は失敗することが当たり前、失敗するところに意義があるのです。

 テストで毎回100点を取り続けることが難しいように、野球の試合においては100点満点の出来で終えるのは更に確率が低く、年に1、2回程度です。試合では80点の出来で、ほぼ100点の状態と言えるでしょう。

 したがって練習では失敗を恐れず、「もっと上手くなりたい」とチャレンジ精神で臨まなければなりません。

 私がバルセロナオリンピック(1992年開催)日本代表の一員として活動をしていた際に早稲田大学の大先輩、元西武ライオンズ監督 広岡達朗氏のご指導を受ける機会がありました。教わったのは「スローイング」と「捕球動作」の基本という単純な内容でしたが、それまで理解していた「基本」の概念を打ち崩され、その後、私が指導していく上での核になりました。

 その教えとは、スローイングは単純に上手から投げる投げ方だけでなく、サイドハンド、アンダーハンド、更にはランニングスロー、ジャンピングスローなど。捕球も正面の捕球姿勢だけでなく、バックハンド、シングルハンド、更にはグラブトスと多彩なプレーを行うべきと、基本のバリエーションが豊富でした。

 要約すると「試合で必要とされるプレーそのものが基本であり、それがマスターできなければ試合では通用しない」という教えでした。ジャンピングスローやランニングスローなどを練習していたら、以前は「まだそんなプレーは必要ない。基本にしっかり忠実に」とよく叱られたものです。

「試合に必要な技術は全て練習を行え」という広岡さんの指導は当時の私には斬新であり、プレーの選択の幅を広げるきっかけになったことは間違いありません。

 勿論、試合中に難しい技術を駆使する必要がある状況では、エラーも沢山しました。ですが、無難に行ってセーフになるぐらいなら、アウトに挑戦し、シングルハンドからのジャンピングスローを選択しようという考えに変わっていったのを覚えています。

 失敗する可能性がある難しい技術を練習するよりも「できることを正確に」というのが指導の常套手段ではありますが、それでは高いレベルでは通用しません。

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