【小島啓民の目】野球上達の第一歩 「ものまね」が秘める効果とは

上達のきっかけとなったK.グリフィーJr.の映像

 伊藤選手は柔軟性のある下半身の持ち主であり、バットコントロールが上手いという特長もありました。丁度同じようなタイプで、メジャーリーグ・マリナーズなどで活躍したケン・グリフィーJr.の姿を思いつきました。

 早速、ケン・グリフィーJr.が打っているビデオ映像を入手し、彼のものまねから始めさせることにしました。伊藤選手を呼び、「このビデオの選手のようにして打ったほうが良いと思う。だからこのビデオを1万回見るぐらいの気持ちで見ておいで。そして、その一挙手一投足をまねするぐらいの気概で練習に取り組んでみてくれ」と言ってビデオを手渡しました。

 私が「両腕、下半身の使い方はこうだ」などと指導をするよりも、素晴らしい題材を見て考えながら「まね」をする方が効果は上がります。「ビデオを繰り返し見るたびに、最初は全体の姿をイメージしましたが、繰り返す度に『手の使い方は?』『足の踏み出し方は?』と細かい部分を見るようになった」と本人は話していました。もちろん、指示どおり1万回も見たとは思ってはいませんが……。

 練習や試合において好結果が出始めました。ものまねをして技術が向上したこともありますが、バッティングの課題を自覚し、教えられるのではなく、自分から考え、真摯に取り組んだ結果であったと思います。ものまねを最後は自分のものにしてしまったという感覚でしょうね。

 人間の成長の過程を考えても、子どもの言動が両親に似てくるのは、生まれた直後から両親のものまねを無意識のように行っているからでしょう。先ずは、ものまねですよね。

 完璧にものまねができるようになったら、その段階で既に土台は出来上がっています。その次は、自分の身体特性に合わせて更にフォームを進化させていくだけです。進化させるには、自身の身体的特性の長所を取り入れ、短所を取り除いていく作業を行えば良いわけです。

 例えば、体が柔らかい人ならば、しなやかなフォームへと移行する。逆にパワーがある人であれば、よりパワーが使えるフォームへ移行させるなどです。

 しかしながら、この段階になれば1人で悩むのではなく、指導者とタッグを組む方が早道です。

「ものまねは上達の早道!」これは先人も言っていたこと!

「忘れるべからず!」です。

【了】

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

小島啓民 プロフィール

1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年~2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。

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