黒田博樹のリードは意外と難しい? 名捕手育成につながる40歳右腕の投球

「工藤さんが城島を育てたように」黒田とのコンビは捕手を育てる

 黒田は、ある意味で完成された投手といえる。ストライクゾーンでボールを動かし、少ない球数でアウトを積み上げていく。ボール球をうまく使う日本の投手にはあまりないスタイルだが、野口氏はストライクゾーンで勝負する形は、渡米前から築き上げてきたものだと指摘する。

「広島がブラウン監督になった時に、黒田くんには90何球での完投が何試合かあるんですよ。ブラウンが100球で(登板を)切って、メジャースタイルでやると言っていたので。『だったら自分は完投したいから、どうやったらできるか。ストライクゾーンの中で勝負する』と黒田くんは考えた。そういうのを身につけてからメジャーに渡った。それで、メジャーでも同じスタイルでずっとやっていたから、帰ってきてからも変える必要がない。日米両国で結果を出したスタイルなんです」

 確かに、ブラウン監督が就任した2006年には、5月3日のヤクルト戦で98球で9回を投げきり、白星を挙げている。110球以下での完投も1年間で3試合あった。さらに、2007年5月20日のヤクルト戦では、9回7安打2失点での完投勝利を89球でまとめるという驚異的なピッチングを見せている。

 そんな黒田の考えに會澤はどこまで近づけるのか。今季初登板のヤクルト戦では、ベテラン右腕がサインに首を振る場面が目立った。ただ、野口氏は「勉強のスタートだから、いいんじゃないですか。1戦目、良いスタートきったんじゃないですか」と言う。黒田の復帰1年目で會澤が得られるものは、とてつもなく大きいという。

「試合の中で黒田君が首を振りながら(配球を)教えることは可能ですからね。(ソフトバンクで)工藤さんが城島を育てたように。それで覚えていけばいいんじゃないですか。黒田君は『僕はいつ辞めてもいい』という発言をしてるじゃないですか。だったら、本当に辞められてしまう前にモノにすべきですよ。それだけ焦って勉強する必要があるかもしれない。

 黒田君にもっと現役を長く続けてほしければ、逆に今年1年で完全にモノにして『黒田さんが1試合100球ちょっと投げた中で首を振ったのは1回もなかったぞ』というところまでいけばいい。それが會澤君の成長でしょうね」

 野口氏は、広島の若き正捕手にこうメッセージを送る。

「あとは、試合の後に會澤君が黒田君に食らいつけばいいんですよ。『なんで首振ったんですか』って。文句とかじゃなくて『純粋に勉強のために教えてください』っていけば、黒田くんも『こうだ』って説明してくれる。それがいっぱい蓄積して、同じようなケースになった時に『あの時こうだったな。今度はどうかな』と考えながらサインを出せばいい。それが勉強ですよ」

 黒田からどれだけのことを吸収できるか。同じ攻撃型捕手だった城島のように、日本を代表するキャッチャーになれるのか。會澤にとって、勝負の1年になることは間違いない。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

野口寿浩 プロフィール

1971年6月24日生。習志野高から1989年ドラフト外でヤクルトに入団。主に古田敦也の2番手捕手としてチームを支える。98年シーズン途中に日本ハムに移籍すると、正捕手の座をつかみオールスターにも2度出場。2003年に阪神に移籍すると2度のリーグ優勝に貢献、09年からは横浜でもプレーし、10年に現役引退。

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