時代を切り拓いたジャッキー・ロビンソン 92歳夫人が語るデビューの記憶

ロビンソンを支えた夫人、心躍ったデビューの日

 この日の試合前に行われたセレモニーには、ロビンソンの活躍を陰で支えたレイチェル夫人の姿もあった。92歳とは思えないハツラツとした女性で、現在は「ロビンソン・ファンデーション」の代表として慈善活動に励んでいる。ドジャースのカーステン球団社長が、ドジャースタジアム敷地内にロビンソンの銅像を建立する計画を発表すると、「ずっと待ってたのよ!?」と茶目っ気たっぷりの笑顔を振りまいた。

 アメリカでは、いまだに人種差別は大きな社会問題となっている。21世紀の現代でもそうなのだから、終戦直後の状況は想像もつかないほどだっただろう。ロビンソンがデビューした日の心情について質問されたレイチェル夫人は、こう答えた。

「とても心躍る日だったことを覚えているわ。同時に大きなストレスを感じる日でもあった。でも、それ以上に期待で胸が膨らむ感じだったわ。彼が周囲の期待に応えられないかもしれないなんて、恐れたことは一度もなかったの。だって、必ず期待以上の活躍をするって知っていたから」

 歴史上の偉大なる英雄の陰には、往々にして力強い妻や恋人の存在があるが、ジャッキー・ロビンソンもその例外ではないようだ。

「私たちに与えられた機会、挑戦、新たな道を模索する日々に感謝しているわ。こうやって今を迎えられるのも、周りにいる皆さんからの手助けがあったからこそ。アメリカ社会を動かすムーブメントに関われることを誇りに思います」

 先人の努力と勇気なしには、今当然のように享受している自由もなかったのかもしれない。野球という枠を越え、社会のあり方について考えさせられる1日となった。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

佐藤直子 プロフィール

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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