【小島啓民の目】野球におけるデータ活用 高校野球は精度低下、プロの醍醐味は“騙し合い”

良い捕手は打者が一振りしただけで弱点を見抜く

 私は諫早高の3年生の時だけ、投手の経験があるのですが、コントロールが悪く、よく四球を出していた時期がありました。お世話になっていた整骨院の先生から「元々、捻挫ぐせがついている左足首を試合のたびにテーピングで固定しよう」と言われ、素直に従ってから四球が激減しました。先生曰く、着地した左足(右投げ)がしっかり踏ん張れていないという印象のようでしたが、個人的には、今思えばメンタル的なものだったのかなと思っています。

 このように、昨日の出来と今日の出来が全く違うという結果が出ることも日常茶飯事で、それが高校野球の一つの大きな醍醐味に繋がっているのでしょう。発展途上の選手と成熟したベテラン選手では、データの使い方が違ってくることもお分かり頂けるでしょう。

 では、数試合では全くデータをあてに出来ないのかという疑問が湧きますが、少ない情報でも、ある程度の傾向を掴むことは可能です。

 良い捕手は、打者が一振りしただけで弱点を見抜くことができます。

 ヤクルトや楽天で采配された野村克也元監督が、「初物(初めて対戦する打者)と対戦する時は、気を遣う。とにかく、1球スイングさせて、対応を考える」 「逆に振らない打者は、何を考えているの良く分からないのでセオリーの配球で勝負することが多い」と話されていました。

 初めて対戦する打者には、バットを振らせる。もっと簡単に言うとファールを打たせるということに捕手は傾注するということでしょうか。打率や防御率などの数字化されたデータも重要ですが、それ以上にこの選手がどういう選手かという特徴を掴むだけでも戦術を組み立てる参考になることは言うまでもありません。

 一つだけ忘れてはいけないのは、弱点を突く戦術には、それに伴う技術がないといけません。データを活かすも殺すも、結局は基本技術が身についているかどうかです。

 さて、プロ野球は、終盤へと移行していきます。この時期からは、益々、情報合戦になっていくことは間違いありません。「グランドの中で、どういう騙し合いが行われているのか」という視点で、これから野球を観ていただくと面白みが増すかもしれません。

【了】

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

小島啓民 プロフィール

kojima
1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年~2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。

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