2番打者には強打者を… よく聞く説の根拠とは?

数理モデルを用いた演繹的アプローチ

 演繹とは、事柄について仕組みを理論的に捉え、それに沿って原理や法則を導き出すことをいう。

 著名なセイバーメトリシャン(セイバーメトリクスを用いて分析を行う人)のトム・タンゴらが執筆した書籍『The Book: Playing the Percentages in Baseball』(注1)では、シミュレーションによる実験から最適打順を探るのではなく、数理的なモデル(物事の性質を数式で表したもの)をつくり、「各打順に認められる一般的な性質」が理論的に明らかにされている。

 タンゴらのモデルは、数学を用いて「どのような状況がどのくらいの確率で起こり得るか」を精緻に計算したものである。これによって、各打順にどのような塁状況・アウトカウントで打席が回る傾向があるかという「打順ごとのめぐりあう状況の違い」を正確に把握することができる。

 1番打者を例にとれば、打席に入ったときのアウトカウントの平均値が他の打順に比べて少ない。これは初回に確実にノーアウトで打席に入るのだから直感的にも自然なことだろう。アウトカウントが少ないときには出塁が得点の見込みを大きく左右するから、1番打者にとって出塁率は重要となる。他方で、打席に入ったときに塁上に走者がいる見込みは小さい。そのため長打力の相対的な重要性は下がる。

 このような「一般的に1番打者を取り巻く状況」を考慮すると、1番打者には出塁能力が高いタイプを置くことが有効であることがわかる。

 4番打者は、1番打者と比べて打席に入ったときの平均的な走者数・アウトカウントが多いという状況にある。

 そのため、どんな場合でも1点を生み出すホームランに代表される長打は価値が高まる。しかし、四球での出塁は逆に、ノーアウトの場合に比べて2アウトだと効果が薄い。つまり4番打者は出塁よりも長打が相対的に重要となる。タンゴのモデルを用いれば、こうした状況の把握が全ての打順について行うことができる。

 なお、タンゴのモデルはもうひとつの重要な要素の存在も指摘している。それは回ってくる打席の多さである。「強打者から順に並べるような形の打線が効果的」であることを示唆した、コンピュータ・シミュレーションによるアプローチによる推定と同じ方向性の指摘である。

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