2番打者には強打者を… よく聞く説の根拠とは?

必要な「2番>3番」という価値転換

 3番の重要度が低いのは少し意外な結果かもしれない。3番は実は2アウトで打席に入ることが多い。2アウトはそもそも得点の見込みが低い状況であり、そこでヒットを打ってもそこから得点を積み重ねるのが難しい。強打者の力を生かしづらいのだ。上位の他の打順に比べるとわざわざ強打者を置くことがもったいない打順といえる。

 もっとも、3番と他の上位打順との間に、重要性において劇的な差があるわけではない。『The Book』でも、細かな打順の変化はチームの総得点にほとんど影響を与えないとも記されている。

 これはメジャーリーグの環境に基づく計算だが、理論に基づいた打順の改善を図っても、見込まれる効果は年間の総得点にして1、2点増程度と算出される場合がほとんどだという。

 ただし、日本の状況を踏まえると、2番打者に打力に欠ける選手がアメリカ以上に配置され、さらに送りバントによって好条件の打席が浪費されている実情が影響するため、2番に強打者を置きヒッティングさせていった場合、アメリカにおける分析結果よりも大きな効果が見込めるだろう。

 最後にまとめておこう。一般的な打順に関するセオリーは、おおまかに上位に強打者を集めている。その点で大きな間違いを犯してはいない。ただし、述べて来たような改善すべきいくつかの点があるのは間違いない。

 また、認識しておきたいのは、現状のセオリーが大きく間違っていないがゆえに、打順変更による得点増のインパクトもそこまで大きくはならないということだ。

 出場している選手が同じなら、打順を多少変えたところで得点が突如増えるようなことはない。むしろ、能力がある選手が何らかの理由で出場機会を得られなかったり、コンディションを落としたりすることのほうが、得点力へのダメージは大きいことは知っておきたい。(注2)

【了】

DELTA・蛭川皓平・秋山健一郎●文 text by DELTA HIRUKAWA,K. AKIYAMA,K.

(注1)
『The Book: Playing the Percentages in Baseball』
トム・タンゴ、ミッチェル・リクトマン、アンドリュー・ドルフィンという3人のセイバーメトリシャンが、野球における戦略や伝統的な言説についてデータを用いた定量的な分析し結論を与えている書籍(洋書)。2007年にPotomac Books Inc.より発売。現在は電子書籍版なども発売されている。

(注2)
 今回紹介した分析は、野球の基本的な仕組みだけを抜き出したものであることには注意が必要。例えば、各打順にどのような状況で打席が回ってくるかの検討時に送りバントや盗塁の影響は考慮されていない。
 ただし、送りバントや盗塁が、ある打順の重要性を極端に上げたり下げたりすることはない。送りバントは成功してもアウトカウントが増え、進塁の効果と相殺されることが多く、盗塁もよほど高確率で成功しない限り成功による効果は失敗によって相殺されるからである。

DELTA プロフィール

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート4』を3月27日に発売。http://www.deltacreative.jp

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