なかなか試合を中止にしないMLB なぜ米国ファンは雨の中待ち続けるのか

再開を我慢強く待つファンのために

 現場にいた頃は、合計何時間、雨のために待たされたかは予想もつかない。だが、いつも驚かされるのが、数時間の中断を経てからの再開でもファンは球場に残っていることだ。そのファン心理を逆手に取るわけではないが、試合を運営している側とすれば、待ってくれるファンがいる限り、早い段階での中止は利益の損失になるだろう。

 雨天中止になるかもしれない状況下でも、ファンは再開を待ってくれる。その間、試合は開催されていないのでファンはビールを購入したり、食事をしたりしてくれる。球場側も他試合をビジョンで流し、時には他競技であっても地元チームの試合を中継する。雨が降っていてもファンを帰らせない仕掛けを考える。

 マイナーでは人手が足りないために、スーツを着たGMまでもがグラウンドへのシートを敷く作業に参加する。球団スタッフが一丸となって、取り組む作業は見ている側としては心温まるシーンに映る。もちろん、びしょ濡れになって作業に取り組んでいる者たちからしたらたまったものではないだろうが、ファンもこういうシーンを見て大歓声を送る。これはマイナーならではの光景かもしれない。

 メジャーでもマイナーでも、雨が降って、数時間中断しても帰らないファンを見ると、「アメリカ人は本当に野球が好きだな」という単純な思いが最初はあったが、実際にはファンたちが球場に残る理由があり、ファンが残ってくれるための仕掛けが多く存在するのではないかと思うようになった。

 今季、メジャーではニューヨーク、そしてクリーブランドで開幕戦が中止となった。クリーブランドでは体感温度がマイナス7度だったことから、低温を理由に中止の決断が下された。それでも服を着込んだファンたちは球場前で開幕戦の開催を楽しみに待ち続け、地元メディアでは中止の決断に多くの不満の声があったという報道も目立った。もちろん開幕戦という特別な日であり、単純に平日の昼間に休みを取ってしまったため、翌日に試合を振り替えられても観戦に行けないという声もあるかもしれない。

 ともあれ、どんな環境下でも試合を楽しみにしてくれるファンがいる。運営の安全面、選手たちにとっても安全な環境でプレーさせることを大切にしながら、試合が雨で遅れて中断してもファンが残ってくれる理由を作り続ける仕掛けは、今後も進化が求められるだろう。

【了】

(記事提供:パ・リーグ インサイト

新川諒●文

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