“スイングしない打者”山田哲人がスゴイ 際立つ「引っ張り」と「見極め」

引っ張れば引っ張るほどに上がる山田の打撃成績

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「引っ張った打球」の成績が継続して上昇する山田哲人

「引っ張り傾向」が強くなっている山田だが、これと現在の活躍にはつながりがあるのだろうか。山田の各種打撃成績を、打球方向別に算出しまとめたのが次の図だ。OPS(On-base plus slugging)は出塁率と長打率を足した値で打者の総合的な攻撃力を、ISO(Isolated power)は、長打率から打率を引いた、打者の長打力を計る指標だ。

 注意して欲しいのは、ここで示す数字は「打球が発生した打席」だけを対象に数値を算出した変則的なものであることだ。四死球や三振などが含まれていないので、打率や長打率は高くなり、出塁率は低く出る。その数字そのものが意味するものより、年ごとの推移を見るためのものとご理解いただきたい。

 まず目につくのが、Pull打球の成績が年々上昇している点だ。今年は、トリプルスリーを達成した昨年よりも引っ張りで結果を出している。今年のここまでのPull打球のISO.634は、十分な長打力を感じさせた昨年を上回る数字で、引っ張りの長打を数多く放っていることがわかる。一方、CentやOppoについては、そこまでの変化はない。

 NPBの平均的な打者と比較すると(※1)、山田のPull打球の成績がどれだけ突出しているか理解できるだろう。また、NPB平均ではOppoのゾーンへ飛んだ打球の成績がCentを上回っているのに対して、山田は逆の傾向を示している。

 平均的な選手がセンターより逆方向への打球で成績を残しやすいのは、「球場の両翼が短く本塁打に必要な飛距離が短いため」「一塁線や三塁線を抜けたゴロは、転がり方次第では長打になるが、センターへのゴロは、ほぼ長打にならない」といった理由があると推測される。長打の数で上下するISOの値がセンター方向で低くなっているのはそのためだろう。しかし、山田はそうした一般的な傾向を覆している。センター方向に、時には長打にもなる力強い打球を多く放っているのだろう。

 一般的には、打球方向については広角であることが称えられ、引っ張り一辺倒は良しとされない。しかし山田は引っ張った打球を、長打を中心とした結果につなげてきており、その結果の質も年々高まっている。引っ張りの割合を高めていくことは、自らが可能な打撃で、最大限の結果に出すための最適化ととることもできる。成立した1つのスタイルということができるだろう。

 最後に、相手チームが山田に対しとれる対策はあるのだろうか。一部の球団が実施し、注目されたソフトバンクの柳田悠岐に対するシフト(※2)のように、大胆な守備シフトをとる作戦はどうか。

 山田は今年、一・二塁方向(Oppo)へのゴロは1本しか打っていない。それを考えると、二塁手が定位置を守る意味はあまりない。内野手全体としてレフト方向に寄って守るというのが、自然な対応だろう。山田がこれだけ結果の出ている引っ張りを捨てて、シフトの裏をかき逆方向に打球を飛ばすことは考えにくいからだ。ただし、山田は柳田と違い、ゴロの少ない打者であることから、内野手の守備シフトによって大きな効果を得ることは難しそうではある。

※1 左打者の場合は、Pullを一塁側に、Oppoを三塁側として集計する。
※2 『柳田悠岐の鋭いゴロをアウトに ロッテが採用した「柳田シフト」に迫る』参照

DELTA プロフィール

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~4』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート5』を2016年5月25日に発売。集計・算出したスタッツなどを公開する『1.02 – DELTA Inc.』も開幕より稼働中。

【了】

DELTA●文 text by DELTA

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