09年WBCスコアラーが忘れられないイチローの秘話「僕、何狙えばいいですか?」

2009年WBC決勝戦でのイチロー【写真:Getty Images】
2009年WBC決勝戦でのイチロー【写真:Getty Images】

09年WBC決勝・韓国戦 延長10回2死二、三塁の勝ち越し機「私に聞いてきたのは初めてでした」

 21日のアスレチックス戦(東京ドーム)を最後に現役を引退したマリナーズのイチロー外野手。メジャー通算3089安打、日米通算では“世界最高”の4367安打を放ってきた背番号51は、米国野球殿堂入りも期待されている。

 数々の名場面を振り返る中で欠かせないのは、やはり2009年WBCの世界一だろう。決勝の韓国戦。3-3の延長10回、林昌勇から決勝2点タイムリーを放ち、日本中は大いに沸いた。

 打席に立つ直前、イチローはベンチにいたチーフスコアラーの三井康浩氏と言葉を交わしていた。

 球場のボルテージが最高潮になる中、イチローの声は冷静だったと三井氏は語る。

「あの場面でですよ、『僕、何狙えばいいですか?』と。イチロー選手が私に聞いてきたのは、この時が初めてでした。これまでも練習の時から、ずっとチームが徹底する事項に従ってくれていましたし、各打席で自分で考えて打っていましたから、私も思わず、『え? この場面で? 俺に聞く?』って動揺してしまいました」

 三井氏は1985年に現役引退後、87年から巨人でスコアラーを20年以上務めてきた。巨人の頭脳として、2007年まで一筋でスコアラーをやってきている中で、ポリシーがある。選手が自分に聞いてきたときは「迷わせないこと」「考える時間を与えない」ことだ。

 だから、イチローにも言った。「ここはシンカー(狙い)だけでいい」

 シンカーは、林昌勇の勝負球だ。

「この場面でクローザーがイチロー選手に対して、一番自信のある勝負球を投げてこないはずがありません」

 そう分析した。ストレートでもなく、スライダーでもない。シンカーを狙っていってほしい、と伝えるとイチローは静かにバッターボックスへ、歩を進めた。

 2死二、三塁。イチローは最初の方のストレートは見逃し、シンカーを狙っていったがファウルになった。追い込まれるとゾーンに入ってきた直球はカットしたものの、狙いは変えない。そして8球目、高速シンカーにバットを合わせ、センターに弾き返したのだった。

 高いイチローの打撃技術とメンタルの強さがあったから、あの劇的な一打が生まれたことは間違いない。ただ、一緒に日の丸の重圧と戦ったスコアラーの努力も見逃すことはできない。

 イチローだって一人の人間。プレッシャーを感じる。その中で確かなものが欲しかったのかもしれない。

WBCまでイチローとは接点はなし 最初は不安も「イチロー選手は従ってくれた」

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