米国に140キロ超投手も? 侍ジャパンU-15代表の鹿取監督が挑む世界一への戦い方と展望

2016.6.20

今年7月29日から8月7日まで、福島県いわき市で「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ 2016 inいわき」が開催される。地元開催の大会で初優勝を遂げることはできるのか。前回大会に続き侍ジャパンU-15代表を率いる鹿取義隆監督(59)に国際大会の難しさと次世代を担う侍戦士たちへの思いを聞いた。(前編)

写真提供=Getty Images

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地元開催のW杯で初優勝を目指す侍ジャパン

 今年7月29日から8月7日まで、福島県いわき市で「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ 2016 inいわき」が開催される。日本は2012年の第1回大会(メキシコ)は出場を辞退。14年の第2回大会(メキシコ)では7位となった。地元開催の大会で初優勝を遂げることはできるのか。前回大会に続き侍ジャパンU-15代表を率いる鹿取義隆監督(59)に国際大会の難しさと次世代を担う侍戦士たちへの思いを聞いた。(前編)

――開幕まであと約1か月に迫りました。全国5地区で行われたメンバー選考のトライアウトは、鹿取監督ご自身の目で見られました。116人の参加者から20人の侍戦士を選出しましたが、どこをポイントとして見ていたのでしょうか。

「投手は13人ほど選びました。割合として(投手が)多くなったのはゲーム数も多く、球数制限がされるからです。投手が少ないと故障する可能性も出てくるので多めにしました。13人といっても投手以外のポジションができる選手がほとんどです。トライアウトの中では変わり身の早さやスローイングを重点的に見ていました」

――まずはその「変わり身の早さ」について、教えて下さい。

「指導して、すぐに良くなるかどうかということ。チームが集合してから、大会に入るまでの時間は短い。もちろん時間はかければ、みんな上手になります。しかし、準備期間を含め、大会は短いですから、すぐに対応してもらわなければいけない。(トライアウトでも)少し話をしただけで、いい方向に変わる選手もいました。一方、投手で球速は出るが10球中、ストライクが1球しかはいらなかった選手もいました。素材としては素晴らしいが、今はすぐに試合で使うには厳しい。将来的には高校まで行ったら、実力が上がってくると思うんだけどね。投手で言うならば現状で必要なのは、ストライクゾーンに投げる確率が高い投手になります」

――短期決戦を勝つための一つのポイントと言えそうですね。トライアウトではスローイングも時間をかけて見ていましたが、どのような理由が挙げられるのでしょうか。

「将来が楽しみな選手が多かったですが、そういう子たちの共通点はスローイングがいい。内野手だったら、守備の時に焦って悪送球し、失策につながってしまう。外野手はカットに返す。この世代の大会は失策が失点に直結します。ステップしないで投げたりする子もいるけれど、ステップ&スローという基本に忠実なプレーを求めていきます。派手なプレーはいらないので」

チームは「全員レギュラー」、国際大会を勝ち抜く難しさとは

――この大会は守りが重要になっていくということでしょうか?

「相手が強豪国の場合は、なかなか点は入りません。失策やパスボールで入る傾向がある。適時打も出るけど四球が絡むことも多い。守備だけでなく、送りバントも重要です。全体的に日本の選手はバントがうまい。ボーイズやシニアなど各リーグでバントの教育ができているのかなという気がします。タイブレークで無死一、二塁で始まった時にはバントが必要。タイブレークでは2~3回経験がありますが、送って、点を取って勝った試合もありました」

――メンバーを選出するために、バントがうまい選手、流れを変えるスーパーサブ的な選手を選ぶ必要も出てくるのでしょうか?

「それはありません。全員レギュラーです。選手たちに力の差はない。誰が出ても全く問題はない。スタメンは毎日代えます。国際大会は9イニング。子供たちは日本では各リーグで7イニングをプレーします。ただ、その2回が大きいのです。体力がどうしてももたない。疲れが見えてしまう。捕手も野手も途中で代えます。選手にはそういう戦いになると、これから説明します。だから、誰が出ても戦力が劣らないチーム構成なのです。まぁ、場合によってコールド勝ちもあるので、うまく見極めながらやっていきます」

――U-15世代の国際大会で日本のチームに顕著に出る特徴は打者にもありますか?

「バットが国際野球用になってしまうので、日本の使っているものとは違うものになってしまいます。それを踏まえて、選手選考、起用を判断しています。前回は日本のバットを使っていました。国際大会公認のバットなんですが、芯でとらえたら飛ぶけれど、ちょっと飛びづらい。なので、トライアウトの時から国際大会公認のバットを使いました。大会で本塁打はなかなか出ない。バント、バスターをしっかりとやらせることが大事です。自分のチームでは4番を打つ子が多いので、バントがうまい子ばかりとは限らない。これから練習で教えるので変われると思います」

――やはり最も警戒するのはアメリカになると思います。前回大会も2-7で敗れています。改めて振り返り、どのような試合だったのでしょうか?

「球の速い投手がいました。ストライクはそこまで入らなかったけど、そのスピードについていこうとう思って、打者が振りにいってしまい、やられてしまった。驚いたのは相手投手らの身長と球の速さ。185センチくらいでした。先発投手は左で140キロ。クローザーは142キロ投げて来ました。日本の15歳以下で140キロ以上をコンスタントに投げる投手はそういない。135キロを超えると、日本の場合は打者が対応するのは難しい。また、アメリカの子は腕や足が長いから、ボールを投げる角度が違う。日本の子でも大きい子はいるけど、並んだら小さい。捕手では二塁まで座ったまま投げている選手もいました」

「本当に15歳なのか」というような投手をいかにして攻略するか

――今大会はスピードボールへの対応という点も求められていくのでしょうか?

「前回はアメリカだけでなく、対戦して敗れたパナマの投手も140キロを超えていた。他の国は自分のチームに速い投手がいるから、打撃練習などで対応できると思うのですが、日本はそうはいかない。練習でマウンドより前から投手が投げても、そう簡単に打てるものではない。ただ、相手に球数を投げさせればチャンスはあります。打順が一まわり、二まわりすれば、球速は落ちてくる。三まわり目くらいになれば、球数制限で投手は代わる。そうすればヒットは出てくる。そういう粘りの野球も必要になると思います」

――鹿取監督が率いた侍ジャパンU-15代表ではアメリカに対して過去1勝1敗。勝てる可能性は十分にあると思いますが、どのように得点を取り、失点を防いでいくのでしょうか。

「アメリカには11年は1勝。14年は負けました。勝った試合はタイブレークから勝ち越しました。失点はバッテリーエラーを含めた失策からでした。先ほど言ったスローイングを大切にし、無駄な失策を減らし、得点は塁に出れば、相手は(盗塁を警戒する)クイックも早くないので、盗塁や犠打で着実に進塁していければ、チャンスはあると思います」

――投手目線から見て、アメリカの打者の印象はどのように映りますか? 打者の特徴を教えて下さい。

「基本はセンター返し。外の球をきっちりとセンターに打ち返してきます。何より手が長くて、伸びる。一方で内角はつまる。外でかわすような投球をすると暴投やパスボールにつながるので、どんどん勝負にいかせます。ただ今回のチームがどんな相手になるかわかりません。基本的には同じ年齢なので、これまでの選手たちと変化はないと思う。打者は当たれば飛ぶ選手がいるかもしれないけど、さほど、心配はしていません。ただ、投手は間違いなく、本当に15歳なのかという、驚くような能力の選手がいるとは思っています」

――日本の選手たちはアメリカの選手たちをどのように見ているのでしょうか?

「グラウンド上では大きいなと思うだろうけど、食事会場や球場通路などでバッタリ会うと、普通の15歳の選手。そのギャップにはびっくりします。イヤホンで音楽を聴き、帽子を横にかぶって、ゲームをしているようなイメージ。だから選手たちもみんな仲良くなっていますよ。言葉は通じないけれど、慣れるのが早いというか、順応性は高い。いい交流ができていると思います。選手たちがその時、どう感じるかも大切なことだと思っています。英語を勉強する何かのきっかけにもなるかもしれない。英語で話しかける選手も過去にいましたから。ノリで話している子もいましたね。野球以外でそういう違った一面が見られることも国際大会の楽しみでもあります」

【後編に続く】

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