少年時代は巨人ファンも「心を持っていかれた」 新日本プロレス・内藤哲也のカープ愛【前編】

新日本プロレスの内藤哲也選手【写真提供:新日本プロレス】
新日本プロレスの内藤哲也選手【写真提供:新日本プロレス】

 8月29日。21年ぶりの神宮球場大会で二冠王座奪還に成功した、今最もアツいプロレスラー・内藤哲也選手。プライベートでは熱烈なカープファンとして知られる内藤選手に今回、大好きな野球について伺いました。観戦の楽しみ方からアスリート目線で見た“野球”まで。内藤選手の素顔も垣間見えるインタビューを2回に分けてお届けします。

小学校時代は少年野球チームでショートを守っていたという内藤選手
小学校時代は少年野球チームでショートを守っていたという内藤選手

大の広島ファン!学校が終わると公園に集合! 暗くなるまで野球をしていた少年時代 

――内藤選手は小1から、少年野球チーム『グリーンライオンズ』でプレーされていたんですよね。

 そうです、1番ショート。当時は打つより、守るほうが好きでした。あとは走るのが割と早かったので、盗塁とかすごく楽しくて(笑)。走攻守でいえば、走と守が好きでした。日曜は、チームで練習をして。平日は、学校が終わると友だちと公園に集合して、暗くなるまで野球やサッカーをしてましたね。約束なんかしなくても、みんな自然と公園に集まってくるんです。それが練習がてら、みたいな感じでした。

――プロ野球の応援は最初、巨人ファンだったとか?

 はい。原(辰徳・現巨人監督)さんが好きで、ずっと巨人ファンでした。ところが、だんだん原さんの出番が少なくなってきて。で、原さんが出ない試合が続いた時に、何が楽しくて野球を見ているのか、わからなくなっちゃったんです。そんな時に「これはおもしろい!」と思えたのが、巨人対広島の試合でした。

――どんなところが、おもしろいと思われましたか?

 小学校の頃って、足が速いとモテるじゃないですか?(笑) だから、カープの足を使う野球が本当にカッコよく見えたんですよね。あとは、応援。広島市民球場をカープファンが埋め尽くしてスクワットしながら応援したりと、とにかく熱狂的で。「これは何なんだ!?」というところから興味を惹かれて、だんだんと……。それが小学校高学年くらいの頃かな? そうして中学生の時、原さんが引退したのが決定打に。その瞬間、カープに完全に心を持っていかれました。

――内藤選手のコスチュームには赤が取り入れられていますが、それはカープの赤を意識して?

 俺、小さい頃から赤が好きで。もしかしたら、その影響でカープが好きになったのかもしれないくらい、好きな色なんです。コスチュームに関しては赤が好きというのもあるし、もちろん、カープが赤だから入れよう!というのも、確かに意識の中ではありますね。

2017年8月27日にマツダスタジアムでの始球式に臨んだ【写真提供:新日本プロレス】
2017年8月27日にマツダスタジアムでの始球式に臨んだ【写真提供:新日本プロレス】

マツダスタジアムの始球式前日は、30分しか眠れないほど興奮した

――2017年8月27日の広島対中日戦では、マツダスタジアムで始球式をされましたね。

 野球好きを公言していたので、いつかは始球式の話も来るかなと思っていたので、待ちに待った瞬間ではありましたね。

――当時の思い出として、印象深いことはありますか?

 かなり興奮していたのか、前の晩は30分しか眠れませんでした(笑)。プロレスラーは興行の性質上、移動が多いし、ホテルも常に変わる。でも俺は移動中でもどんな宿でも寝られるから、睡眠に関して苦労したことはなかったはずなのに。それでも始球式の前日は色々と考えたり、やっぱり興奮が大きくて、寝つけなかったです。あとは、俺のボールをキャッチしてくれた捕手の會澤(翼)選手が、あきらかにボール球だったのに「ナイスボールでした!」と声をかけてくれて。その一言がすごく心に突き刺さって、以来、會澤選手が凄く気になる選手になりました(笑)。

――マウンドに立った感想はいかがでしたか? リングで観客に囲まれるのは慣れているかもしれないですが、マツダスタジアムの真っ赤な応援席に囲まれた感覚は、また違ったのでは?

 プロレスと違って客席まで距離がありますし、マツダスタジアムの場合、囲んでいるのはほとんどが、俺と同じカープファンの仲間たち。プレッシャーとかは全然感じず、むしろ「みんな、こっち見てよ!」と。カープファンの皆さんに、カープファンである内藤哲也を見てほしい思いが強かったです。すごく心地よくて、1秒でも長くその場に立っていたかったけど、選手のことを考えると、1秒でも早くいなくなるべきなので。リングでやるようなアピールとかも、やりたいなと思いつつ、邪魔しちゃいけないと抑えた部分があって、そういう意味では「もっと、ああしておけばよかった」っていう後悔があるかもしれないです。

――試合に臨む選手に早くこの場を渡さなきゃ! というのは、やっぱりアスリート目線ですね。

 プロレスは基本的にこういうイベントはないですけれど、あったとしたら俺なら早く終わらせてほしいと思ってしまうので、選手の中にもそんな人がいるかもしれないな、と。それに、これから試合するのに、マウンドを荒らしたらいけないとか、そんなことを思うと、一刻も早くいなくならなきゃ! って。……とはいえもっといたい気持ちももちろん強くて、葛藤していました(笑)。

――また始球式に登場される時は、内藤選手のパフォーマンスも見られるかもしれないですね。

 とりあえず、あの時はボール球だったので。ワンボールからの2球目を投げたいな、と。フォアボールになるのか、もしくは三振になるまでは(笑)、あと何回も投げ続けたいなと思います。

プライベートでも度々マツダスタジアムで観戦するという内藤選手
プライベートでも度々マツダスタジアムで観戦するという内藤選手

お気に入りのカープグッズは、ティッシュカバーとスタジアムの模型

――今もよくスタジアムで野球観戦をされるそうですが、内藤選手オススメの観戦術を教えてください。“座席はどの辺がいい”など。

 座席に関しては、人それぞれ好みがあるので、まずは色々な所から見てほしいですね。外野でみんなと一緒に盛り上がりたい人もいれば、内野でじっくり見たい人、2階席で上から見たいという人もいるだろうし。球場によっては違うけれど、マツダスタジアムの場合は、球場内をぐるっと一周歩けるんですよ。だから、球場の雰囲気をいろんな角度から見られると思います。

――内藤選手のお気に入りの座席位置は?

 若い頃は汗をかきながら、外野でメガホン持って大声を出して……。みんなと一緒にスクワット応援(立ったり座ったりしながら選手名をコールする、カープ名物の応援)をしていたんですけど。今は大人になったので(笑)、内野から全体を見ながらのんびり観戦するのが好きになってきちゃいましたね。

――観戦はやっぱり、ユニホーム必須ですか?

 ユニホームは絶対に着ます! 俺は巡業にもユニホームを持って行くので。で、カンフーバット(細いメガホン)をカチカチたたきながら、応援しています。

――そういったグッズ系は、結構持っていますか?

 グッズだと、車の中でティッシュカバーを使ってますね。あとは俺、建物がすごく好きで、もちろん球場も好きなんです。なので、旧広島市民球場と今のマツダスタジアムの模型があるんですけど、これが結構リアルな作りで。それが一番お気に入りのグッズかもしれないです。家の棚の上に飾ってるんですけどね。カープのグッズってすごく種類が多くて、「こんなのグッズにして大丈夫?」ってものまであるんです(笑)。それが本当におもしろいので、新日本プロレスでも取り入れられたらいいなと思いますよ。

――球場で観戦していると大型ビジョンで流れる、球団応援歌『それ行けカープ~若き鯉たち~』リレー映像に、2017年から登場されていますが……。

 はい! あれって最初のころは、プロレス界からは俺じゃなく、長州力さんが出られていたんです。それを「いや、俺のほうが絶対にカープ好きだろ! なんで俺じゃないんだ!」って悔しい想いをしながら見ていたので(笑)。今は連続で俺が出ているので、これを死守し続けたいですね。

――歌は結構、得意ですか?

 いや! とはいえ、そんなに音程がずれることもないと思うんですけど。毎年、収録に先生がいて、ほんのちょっとでもずれると「やり直し!」って。結構厳しいんです。「もっと(声を)張ってください!」とか、わりと細かく指示が出るので、毎回、先生との戦いがあります(笑)。

――そうしてできた映像をビジョンで見られて、いかがですか?

 試合であの映像が何回も流れるので、マツダスタジアムでの俺の顔の認知度は、すごく上がっています。歩いているだけで、「俺、こんなに有名なんだ! 芸能人なのかな?」って勘違いするくらい(笑)、すごい声をかけてもらえますから。スタジアムに来ているお客様に、“こういう人がカープファンにいるんだ”と知ってもらえて、すごく嬉しいですね。

応援しているという田中広輔選手のユニホーム姿で“アブレ・ロス・オホス”
応援しているという田中広輔選手のユニホーム姿で“アブレ・ロス・オホス”

苦しい時も自分の道を信じて勝利をつかむ姿に、力をもらった

――何か、カープから学んだことはありますか?

 カープは、なかなか優勝できず苦しい時代でも、FA選手を取ったりせず、“若手を地道に育てる”という基本方針を信じて野球を続けている印象があります。俺も2012年から2015年くらいまで、すごく苦しんでいた時期があるんです。プロレスは好きだけど、試合したくないな、試合中止にならないかな、なんて思ったり(笑)。すごくナーバスになっていて、目標を見失いかけていたんですね。そんな時、カープのブレない姿勢や、苦しいけど耐えて続けるという姿に、すごく力をもらいました。

――特に好きな選手や、こういう選手はつい応援してしまう、というのはありますか?

 子供時代に1番ショートだったので、1番バッターやショートを守る選手は、自動的に好きになります。今だと田中広輔選手はすごく好き。ユニホームを着る時も、田中選手の背番号、2番を着ますし。あとはやっぱり、カープを好きになるきっかけだった、足を使う選手。ホームランバッターより、小技のできる選手を好きになる傾向がありますね。それから、活躍しそうなのにチャンスをなかなか活かせない選手とか。すごく目に付くし、応援したくなります。カープで言うと、堂林(翔太)選手。出番がどんどんなくなって、期待にもなかなか応えられなくて。でもいつかやってくれるんじゃないか、ってみんなが信じていたら、今年はすごく成績がいいんです。「ついにこの時が来た!」って、目が行ってしまいますね。

――ほかにショートであれば、小園(海斗)選手はいかがでしょう?

 すごく期待しています! ただ、(1軍で)早く見たいけど、そうなると俺の好きな田中選手はどうなってしまうんだ? という不安も(笑)。でも、ああいう期待されている選手がずっと2軍でやっているのも、カープっぽいなと思うんです。捕手の中村奨成選手の、上がってきたのになかなか出番がなくて……みたいに、じっくり育てられている感じも。

――かと思えば、最近の羽月(隆太郎)選手みたいに、ノーマークだった選手の活躍があったりしますね。

 いいですよね。無名の選手がいきなり出てきて即活躍! って。カープだけじゃないでしょうけど、ああいうのもプロ野球ファンを楽しませてくれる要素の一つだと思います。

――それも野球の楽しさの一つですね。内藤選手が、もし野球観戦初心者さんに、「野球のここがおもしろい!」を伝えるとしたら何を挙げますか?

 一つは応援です。大勢の人が一緒に大声を出したりアクションをしたり。その一体感や、応援の仕方は、魅力の一つだと思います。あとは制限時間のあるスポーツじゃないので。極端にいえば、9回裏2アウトで、0対100だとしても、まだ逆転の可能性があるところ。制限時間のあるサッカーとかだと、残り1分で0対100だったら……あきらめちゃいけないけど、絶対に追い付けない。もちろん野球だって、そんな大逆転劇は簡単には見られないです。でも、決して0%ではないし、ギリギリまでゲームを楽しめる。野球には、どんな状況でも逆転の可能性がある。そんな部分が、俺はすごく好きなんです。

<PROFILE>
内藤哲也(ないとう・てつや) 1982年6月22日、東京都・足立区生まれ。身長180cm、体重102kg。AB型。2005年新日本プロレス入門、2006年デビュー。所属ユニットはロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン。2020年1月、IWGPヘビー級&IWGPインターコンチネンタルで史上初の二冠王者に。同年7月その座を奪われるも、8月29日、21年ぶりに開催された神宮球場大会で勝利。二冠王座奪還を果たした。Twitterアカウント@s_d_naito

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