ミラクル連覇に導いた吉田正尚 「あんな経験、もうない」…古巣に残した“1勝を取る”イズム
リーグ連覇も優勝マジック点灯の経験がない吉田
着実に積み重ねる白星に、ふと笑みがあふれる。3連覇を狙うオリックスが“Vモード”に入ってきた。昨季日本一に輝いた王者は、ソワソワしない。その理由は……。昨年まで選手会長を務めた、レッドソックスの吉田正尚外野手が、よく知っている。
「あんな経験、もうないですよ。僕らはどうしようもないじゃないですか。目の前の試合に勝つしかない。優勝したいとは思っていましたけど、確率は低かったんでね。相手がどうこうではなく、自分たちが必死に“1勝”を取る。そのイズムは作れたんじゃないかなと思っています」
その言葉に重みがある。オリックスは2021年にリーグ優勝、2022年は日本一に輝いた。2年連続のミラクル逆転Vで、優勝マジック点灯の経験がない。だからこそ吉田は「(勝敗の)計算していても、そういう問題じゃない時期もありましたしね(笑)。1つずつ、僕らが勝たないと始まらない物語だったので」と振り返る。
「どんなに苦しいときでも勝ち切れた」…吉田が残した“置き土産”
負ければ終戦、そんな試合を何度も経験してきた。「意外と計算しないから、そっちの方がよかったのかなとも思います。本当に、目の前のことに集中して、寝て起きて……。その繰り返しだったので」。苦笑いも、良い思い出だった。
「どんなに苦しいときでも勝ち切れた。簡単に勝つよりも、追い詰められてからの喜びがありました。『最後まで諦めない』を体現できていた。応援してくださる方々にも、楽しんでもらえたと思います」
吉田は7月に30歳を迎えた。「オリックスは今、若い選手が多いチーム。あの日本一の経験を起点にしてほしい。僕も、みんなに負けることなく成長していきたい」。海を渡っても古巣ナインの躍動に、元気をもらう。
本拠地・京セラドームのバックスクリーンにはチャンピオンフラッグが飾られている。メジャー挑戦を決断した吉田が最後に残した“置き土産”。「常勝軍団を目指してほしい。勝つ喜びを、次の世代にも伝えてほしい」。夢の先へ。その願いは、きっと届いている。
(真柴健 / Ken Mashiba)