新井貴浩の“新しい監督像” 黄金期は「殴られた」…大物OBが感心した3つの理由
周囲をあっと言わせた菊池涼介、上本崇司の4番起用
かつて昭和50年代の広島黄金期を牽引したOB・高橋慶彦氏が、就任1年目にしてカープを5年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)進出に導いた新井貴浩監督を分析。コーチ経験なしで、4年連続Bクラスに低迷していたチームの指揮を託されただけに、開幕前には最下位を予想する声も多かったが、なぜ下馬評を覆すことができたのだろうか。
「俺の予想は毎年広島優勝。“わがチーム”には優勝してほしいと思っているから」と笑う高橋氏だが、一方で「最下位に予想されるのも無理はないと感じていた」と明かす。リーグ3連覇(2016~18年)を達成した後の広島は、4位、5位、4位、5位。これといって大きな補強もなく、コーチ経験なしでチームを率いることになった新井監督は、前途多難が予想されていた。ところが既にCS進出を決め、29日現在で2位の大健闘。「要因の1つは、新井監督の人間性だろうね」と見ている。
「プレイングマネジャーみたいなものだよね」と高橋氏は新井監督の采配ぶりを表現する。「失敗した選手を責めないし、その後も使う。決して“ダメ”の烙印を押さない。選手と同じ立場で野球をやっていると感じさせる」と言うのだ。確かに、どんな敗戦後にも、新井監督が会見で選手を腐したという話は聞いたことがない。
高橋氏が現役選手としてプレーした1970年代半ばから1990年代初めには、こういう監督はなかなかいなかった。「監督からは殴られたこともあるし、あれこれ批判もされたけれど、選手は『今に見ていろ』と反発心を掻き立てられた」と振り返る。「今は時代が違う。あの頃と同じことをされたら萎縮してしまう選手がほとんどだろう。新井監督は時代に合った指揮官と言えるのではないか」と指摘する。
サプライズ采配もあった。今季の広島は29日現在、7人が4番を経験しているが、プロ12年目で俊足好打・守備の名手のイメージが強い菊池涼介内野手や、11年目の上本崇司内野手がプロ入り後初の4番に座った時には、周囲をあっと言わせた。高橋氏は「故障者が相次ぎ人材が足りなくなった中での、いわば苦肉の策だが、とにかく“つなげる”ことを念頭に打線を組んだのだと思う。そういう意味で新井監督は時代だけでなく、カープの現状にも合った指揮官ではないか」とうなずく。
「ヤクルト、中日の低迷に助けられたことも忘れてはいけない」
さらに、「菊池の4番などは、なかなか思いつかないアイデアで、セオリーからすれば『えっ?』となる」とした上で、「ただし、セオリーというのはともすると『誰もが考える通り、セオリー通りにやったけれど負けました』という言い訳に使われがちだ。新井監督には、セオリーにこだわらない勇気があったと思う」と評する。
指揮官としての才能を発揮した新井監督だが、一方で高橋氏は「“他力”に助けられたことも忘れてはいけない」と釘を刺す。「ヤクルトと中日が早い時期にボロボロの状態になった。この2チームが普通に戦えていれば、セ・リーグはダンゴ状態になっていたはず」と分析するのだ。昨季までリーグ連覇していたヤクルト、昨季最下位の中日は、ともに5月中に首位とのゲーム差が2桁となり、その後もずるずる4位以上との差が広がった。この展開が上位進出へ、広島の背中を押した面があったかもしれない。
いずれにせよ、就任1年目から結果を出した新井監督に、「まだまだ成長過程。選手を責めず、言い訳をしない新井監督は、どんどんいい監督になっていく要素を持っている」と高橋氏の期待は高まるばかり。まずは、監督として初の短期決戦となるCSでの采配が楽しみだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)