17歳がベテランに突きつけた現役引退「もう終わり」 隣で受けた衝撃…つらかった現実

元中日・都裕次郎氏【写真:山口真司】
元中日・都裕次郎氏【写真:山口真司】

都裕次郎氏は1989年限りで引退…当時1年目の今中慎二に驚かされた

 中日・都裕次郎投手は1989年シーズン限りで現役生活にピリオドを打った。左肩手術からの完全復活を目指したが、かなわなかった。元には戻らなかった。引退は自分から球団に申し入れたが、その年の沖縄・具志川2軍春季キャンプの時点で、覚悟はしていた。大阪桐蔭からドラフト1位入団のルーキー左腕・今中慎二投手の初ブルペンを見た時に「もう辞め時だなと思った」という。

 中日1軍がオーストラリア・ゴールドコーストで春季キャンプを行った1989年。プロ13年目の都氏は沖縄・具志川2軍キャンプスタートとなった。体重超過の場合は罰金との星野方針に対して、自主トレ中に反対意向を示した主砲の落合博満内野手が球団からのペナルティで2軍キャンプに参加していた。都氏は「落合さんもいましたけど、あの時はとにかく今中の印象がすごすぎて、びっくりした記憶がありますね」と振り返った。

 滋賀・堅田高から1976年ドラフト1位で中日入りした都氏と、1988年ドラ1の今中氏。同じ高卒左腕であることに加えて、高校3年夏の地方大会で初戦負けしたことも同じ(都氏は滋賀大会で膳所に0-2、今中氏は大阪大会で茨木に1-2)という共通点もあった。「キャンプのはじめの頃は、大丈夫かなと思って見ていたんですよ。今中はふわふわのキャッチボールしかしていなかったのでね。それがブルペンに入ったら全然違いました」。

 初ブルペンの今中は都氏の隣で投げたという。捕手を立たせたままの立ち投げだったが、それを見た瞬間に「大丈夫かな」だった“評価”は一転した。「さすがドラ1というか、これはすごいなと思いましたね。まさに糸を引くような素晴らしいボールを今中は投げていたんですよ」。そして、この時に自身の「辞め時と思った」と明かす。

「自分はそんな今中を見て、うれしかったんですよね。ドラゴンズにすごい選手が入ってきてくれたってね。ライバルというふうじゃなくて、そう思ってしまったんですよ。同じ左ピッチャーで、それを感じた時点でもう終わりだなって思いましたね」。13年目のこの年がラストになるのだろうと腹を括らざるを得なかった。今中の投球はそれほど衝撃的なものであり、都氏の感情にも影響を与えるものだったわけだ。

容赦なしだった現役ラスト登板「少しは気を使えよって思いました」

 1989年の都氏は開幕から2軍生活が続いた。「2軍では投げていましたよ。球速が130キロそこそこくらいしか出なくて、まぁ、ごまかし、ごまかしという感じでしたけど、それが今の自分の球だと思うしかなくて……」。左肩を痛めて1987年3月に手術。その後はもう、かつての投球ではなくなっていた。戻りたくても戻れない。その現実を嫌というほど突きつけられる日々だった。どうすることもできなかった。もはや引退を自ら球団に申し入れるしかなかった。

「8月くらいだったと思います。確か(中日球団の)本田(威志)総務にナゴヤ球場で『辞めさせてもらいます』と伝えたと思います」。その年の1軍登板は1試合。本拠地ナゴヤ球場でのシーズン最終戦となる10月14日の大洋戦が現役ラストとなった。同じく引退が決まっていた鈴木孝政投手が先発して5回6失点、都氏は6回から2番手で2イニングを投げた。打者10人に5安打1奪三振2失点だった。

「あの頃は最後の登板でも打者1人とかじゃなかった。普通に投げました。打たれましたねぇ。引退だとわかっていても容赦ないなって思いましたよ。高木豊なんかは同い年だし、ちょっとは気を使えよってね。まぁ、ええかとも思いましたけどね。三振は左打者の山崎(賢一外野手)からだったかなぁ」。都氏は笑みを浮かべながら話した。「終わった時はもうホッとしましたね。もう試合で投げなくていいと思って……。ホッとしたのが強かったです」。

 現役生活13年間で通算成績は243登板、48勝36敗10セーブ、防御率3.73。「実力以上のものを出せたのかもしれないですね。たまたま(担当スカウトの)法元(英明)さんに指名していただいて、何とかプロに入ってもそれなりに投げられるようになりましたけど、運の良さが強かったと思うし、うまくいったなという気がします」。都氏はどこまでも謙虚だが、決して運だけではこの結果は残せない。1982年の中日優勝は、16勝をマークした都氏がいたからこそだ。

 左肩痛に悩まされるなど苦しい時期も多かったが、それなりに満足もしているという。「だって、次、もう1回やれって言われても、そこまでの成績を挙げられるか、わかりませんよね」。裕チャンの愛称で誰からも親しまれた都氏は笑顔でそう話した。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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