大阪桐蔭・西谷監督が甲子園最多勝の理由 元主将の池田陵真が語った“人心掌握術”
オリックス・池田陵真…母校の大阪桐蔭、西谷監督は「すごく尊敬できる人」
恩師の偉業に、野球の奥深さを改めて感じる。オリックスの高卒3年目、池田陵真外野手は、今春の選抜で甲子園最多の69勝目を挙げた大阪桐蔭の西谷浩一監督へ感謝の思いを強くした。「偉大な人としか、言いようがないですね」。恩師への思いが凝縮した池田の言葉だった。
「あの人は、なんと言うんでしょうね。今、言えと言われて答えられないですね。簡単にこんな人、と言える人じゃありません。あの人と、高校3年間を過ごしてこそ、わかるものがあると思うので」と続けたのは、一緒に過ごした3年間は言葉に表せないほど内容の濃い時間だったということだからだろう。
池田には、ある思いがある。「大阪桐蔭の強さは全国から優秀な選手を集めているから」「西谷監督のスカウティングがいいから強い」という“風潮”へ、実体験を話す。「よく世間の人は『良い選手ばかりを集めているから強い』と言いますけれど、それだけならここまで勝てていないと思います。やっている僕らが、1番それを知っているんです」。
主将を務めた1年間、春夏の甲子園に出場したが、勝てない時期もあった。「僕らの世代、個々の能力の高い選手が多かったんです。その能力に頼りがちだったのですが、ミーティングで話し合い『良い選手が集まったから勝てるんじゃない。この監督のもとでやるから強いんだ』とみんなが口を揃えて言うようになりました。何が強いのかと言ったら、監督だけでなくコーチも含めた環境だと思います」と振り返った。
飛躍の陰にある「共通したもの」
西谷監督は1998年に就任。甲子園最多勝だけでなく、史上初の2年連続春夏連覇を果たすなど、春夏最多8度の優勝に導いた名将だ。将来性ある選手を見出し、長所を見極め性格にあった練習方法や起用法を考える。タレントを揃えるだけでなく、集まった選手の力を引き出し、チームをまとめ上げる指導法で、激戦の大阪で大阪桐蔭を強豪校に育てた。
「今までいろんな人と会ってきましたが、すごく尊敬できる人です。でも、(高校)3年間で気付けていないいろんな面がすごくあると思います」。かつて、父親の急死などで野球に集中できず、寮を抜け出して自宅に戻ったある選手に、西谷監督は「自分の大切な野球をもっと大切にしてもらいたい。物事を途中で辞めて得るものはない。結果は別として、最後までやり遂げて見えてくるものはたくさんあり、そこで初めてわかることがある。1度や2度、つまづいてもいいじゃないか。大切なことは前を向き、歩み続けること。ここからが勝負です」と手紙を送った。
その選手は野球を続け、怪我で断念後は大学在学中に宅地建物取引士の資格を取得し不動産業を起業している。「監督であり、教育者であるから強いのだと思います」と池田。プロの世界でも、良い選手ばかりを集めても優勝できるとは限らない。
オリックスでは中嶋聡監督が2軍監督として選手を育成した経験を生かし、能力や長所、性格などを知り尽くした選手をまとめ上げてリーグ3連覇を果たした。アマチュアとプロの違いはあるが、飛躍の陰には共通したものがある。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)