「毎日が都市対抗のつもり」 最年長41歳の比嘉幹貴が新人に贈った“勇気の言葉”

オリックス・比嘉幹貴【写真:北野正樹】
オリックス・比嘉幹貴【写真:北野正樹】

オリックス・比嘉が新人右腕にへ届けた“魔法の言葉”

 舞い上がる気持ちを、レジェンドの一言が静める。チーム最年長41歳、オリックス・比嘉幹貴投手のアドバイスが、チームのピンチを救っている。

「毎日が都市対抗のつもりでマウンドに」。ドラフト6位の新人、古田島成龍投手(日本通運)にそんな声を掛けたのは、4月20日のソフトバンク戦(みずほPayPayドーム)だった。中継ぎ陣の不調で6回に3点を失い、同点に。3-3で迎えた9回をアンドレス・マチャド投手でしのぎ、延長10回は平野佳寿投手が抑えた。

 ブルペンに残るのは、吉田輝星投手、古田島を含めた3人。出番が近づき、古田島が3度目の肩を作ろうと準備を始めようとした場面だった。「あの場面は、もう『食うか食われるか』じゃないですが、やるしかない。同点の延長戦ですごく難しい場面ですけど『ビビるな、もう行くしかない』みたいな感じで声を掛けたんです。そんな深い意味はなく、頑張れ! っていうようなことです」と淡々と説明する。

 実は“深い意味”があった。国際武道大から日立製作所を経て2009年ドラフト2位でオリックス入りした比嘉ら、社会人野球出身者にとって「都市対抗野球」は「日本選手権」と並ぶ大きな大会。特に都市対抗は、会社の名誉とともに地域の代表として負けられない試合だった。

 比嘉の言葉が、古田島の心に響かないはずはなかった。制球が定まらず、2死満塁でフルカウントとなってしまいサヨナラ機を迎えた。心を決めて、最後は渾身のストレートで牧原大を二飛に仕留めた。

「良い日もあれば悪い日もありますが、ブルペン陣で頑張っていきたいですね」

「プロに入って、あの球場で投げるのは初めてでしょうし、スタンドは超満員。山川(穂高内野手)からのスタートともあって『冷静に投げろ』って言っても、そんなに冷静に投げることはできない状況でした。ボールがばらけてフォアボールを3つ出しても0点で戻ってくるということができたんだから、よかったんじゃないですか」と、比嘉は、古田島の投球をたたえた。

「それまでは楽な展開での登板だったので、比嘉さんの言葉で落ち着くことができました」と感謝する新人右腕に「ちょっとはしゃぎすぎでしたけど(笑)」と注文を付けることも忘れなかった。延長12回は移籍1年目の吉田が3人を11球で仕留め、引き分けに持ち込んだ。自身の出番はなかったが、アクシデントなどに備え“最後の砦”としてブルペンで準備した。

「メチャメチャうれしいですね。チームとしても、試合の流れ的にも。今年もああいう試合を避けては通れません。緊張もするしプレッシャーも感じながら、強くなっていくんです。積み重ねじゃないですか。まだまだ長いんで、良い日もあれば悪い日もありますが、ブルペン陣で頑張っていきたいですね」。数字で表れない比嘉の貢献が、こんなところにもある。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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