地元で“スター級”の声援を受け「沖縄出身でよかった」 興奮気味に語る宜保翔の心境

オリックス・宜保翔【写真:北野正樹】
オリックス・宜保翔【写真:北野正樹】

オリックス・宜保翔、沖縄開催試合は「空回りもしましたが、楽しかった」

 故郷の人たちは、どんな時も温かった。オリックス・宜保翔内野手は、高校時代以来となる地元でのプレーで、改めて沖縄の良さを実感した。「最高でした。空回りもしましたが、楽しかったです。沖縄出身でよかったと思いました」。チームにとって2016年以来、8年ぶりとなった沖縄での主催ゲームに出場した宜保は、笑顔で振り返った。

 5月14、15日に、開催されたロッテ戦(沖縄セルラースタジアム那覇)。宜保は初戦の14日に「8番・二塁」で今季初めて先発出場を果たした。2打数無安打で故郷に錦は飾れなかったが、スタンドから盛んに声援を浴びた。

 15日は1-1と同点の9回に代走で出場すると、10回に先頭打者として左中間へヒットを放った。積極的な姿勢を見せ、果敢に一塁ベースを蹴ったが、直後に足がもつれて二塁で憤死してしまった。「完全に(打球が)抜けたと思いました。舞い上がり過ぎていました」。遊撃を守った11回は、痛烈な打球を好捕したが送球が乱れて失策を記録。打者走者を二塁に進めてしまった。

「空回りしたのは、今季初スタメンが地元での試合だったことで、気合が入り過ぎたからです。『頑張ろうではなく頑張るんだ』とアドレナリン全開でした。良いプレーにも、悪いプレーにも『お疲れ様』と言ってもらえました。応援はプラスでしかありませんでした」

 今季初安打は地元の大応援が打たせてくれたと信じている。舞い上がり、空回りした理由は他にもあった。選手のうち、沖縄出身者は宜保のほか、比嘉幹貴投手、大城滉二内野手、宮城大弥投手、宮國凌空投手の5人。新人で育成ドラフト3位の宮國を除く4選手は沖縄開催を楽しみにしていたが、宜保を除いて全員が故障で出場選手登録を抹消されていた。

 両肩に沖縄県民の期待が掛かった宜保は「マジか……と思いました。『みんなで行こう』と言ってましたからね。宮城とスタンドに向かって『イエーイ』とやろうと思っていたのに。比嘉さんや大城さんも寂しかったと思います。今度は沖縄出身者全員で出場して、スタンドを沸かしたいですね」。次回は、さらに成長した姿を見せることを誓う。

5月31日、サヨナラのホームインは「『絶対に行ける』と思って突っ込みました」

 地元での2試合を終えた宜保は、状態を向上させた。一瞬のプレーで、球場の雰囲気を変えた試合もある。5月31日の中日戦(京セラドーム大阪)。1-1で迎えた9回無死一、三塁の三塁走者だった。宗佑磨内野手が左中間への飛球を放つと、宜保は果敢にスタートを切った。最後はヘッドスライディングでサヨナラのホームインを果たすと、スタンドは歓喜に包まれた。

「『絶対に行ける』と思って突っ込みました。(サヨナラ勝利は)めちゃくちゃ大きいと思います」。いつもは淡々とプレーを振り返る宜保が、いつになく語気を強めて胸を張った。「(三塁ベースコーチの)梵さんと、外野手の守備位置を見て。(本塁送球に勢いがつく)高いフライは止めておこうとか、あの位置で捕った高いフライは勝負ができるから突っ込もうとか、確認をしていました。梵さんからの『行くぞ、行くぞ』と言う声が聞こえたような気もします。自信を持ってスタートしました」

 比較的浅いフライだったため、好返球が来れば微妙なタイミングだった。それだけに、相手外野手の守備位置や肩の強さ、打球の角度に加えて自身の足を計算し尽くしたプレーだったことを明かした。この回には先頭打者として中日・松山のフォークを左前に流して出塁。二盗が捕手の悪送球を誘い、三進。自身のバットと足でサヨナラの舞台を整えた。

 試合後には中嶋聡監督が「宜保が出て、走って、サードまで行ってくれたというのが全てです」と絶賛。ヒーローインタビューには呼ばれなかった宜保を“影の殊勲者”として最大限に評価した。

 宜保はKBC学園未来高沖縄から2018年ドラフト3位でオリックスに入団。「一瞬で球場全体の雰囲気が変わるプレーを見せます。高校時代からそんなプレーをしてきました」というのが、入団直後にセールスポイントを質問した時の答えだった。

 プロ入り後は、俊足と身体能力の高さを武器としてきた。球際に強い守備で成長を続け『パーソル パ・リーグTV』の公式YouTubeで「猛牛忍者」と紹介されたこともある。その守備は、ゴールデン・グラブ賞を獲得する宗佑磨内野手が「派手さや華麗さとは違い、自然体だなあという印象で、他の選手とは違う守備の雰囲気があります。自分の思うように“自然に”体を動かしているところは、影響を受けましたね」と認めるほどだ。

 好守を評価され、ベンチスタートが目立つ宜保だが「先発で試合に出たい気持ちはありますが、変な感情は入れずにやるべきことをやっていきたいと思います」。現在は右肩痛の影響もあり、ファームで再調整中。走攻守の3拍子そろった選手として開花する準備を続ける。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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