憧れは若月健矢…「もっと勉強しなければ」 育成2年目、村上喬一朗が”もらった言葉”
オリックスの育成・村上、憧れの若月から「俺の真似はするなよ」
憧れの背中を追い求める。オリックスの育成2年目・村上喬一朗捕手が、先輩の若月健矢捕手を目標に自己研鑽を重ねている。「ブロッキングや投手とのコミュニケーションなど、オリックスの(捕手陣の)教えを体現している方ですね。人間性も含めて超カッコいいと思います」真っすぐな視線でにこやかに話す。
村上は愛媛・松山市出身。東福岡高、法大を経て2022年の育成ドラフト5位でオリックスに入団した。法大時代は3年秋から3シーズン連続して打率3割をマークし、強肩好打の捕手との評価を受けた。しかし、経験がものをいう捕手というポジション。ウエスタン・リーグでの出場は1年目に35試合、今季も10試合にとどまり、数少ない独立リーグや社会人との交流戦が主戦場となっている。
少ない実戦経験を補うのが、先輩捕手のプレーだ。1軍の試合は必ずテレビで観戦し、配球はもちろん、サインを出すタイミングや投手へのジェスチャーなどを勉強する。なかでも参考にするのが若月だ。今年1月から大阪・舞洲の球団施設での自主トレ中に「一緒に練習をしよう」と声を掛けてもらったのがきっかけ。若月は、山本由伸投手(ドジャース)とのコンビで3年連続してパ・リーグの最優秀バッテリーに選出され、昨季は10年目でキャリア初のゴールデン・グラブ賞を獲得した。
「例えば、追い込んで低めの変化球を投手に求める際、サインを出す前に『低めに』というジェスチャーを送ります。サインを出してから『低く』ではなく、まずキャッチャーの意志を伝えるんです。このサインを出したから低く投げてほしいではなく、絶対に低く投げてほしい、という思いです。落ちる系のサインが出なくても、その思いを伝えたらピッチャーもそこに投げてくれます」
テレビのカメラアングルでは映らない捕手の動きは、球団の独自映像で確認してメモを取る。野球に取り組む姿勢にも憧れる。食事などプライベートの時間を共有した際、気になった試合での配球などを質問すると、タブレットを取り出して丁寧に説明してくれる姿からは、若月が野球漬けの日々を送っていることを学ぶ。「若月さんがこれだけ野球を極めようとされているのだから、自分ももっと勉強しなければいけないと思います」と話す。
入団会見で「1番のアピールポイントは、見る人を虜にするスマイルです」
忘れられない若月の言葉がある。「俺の真似はするなよ」。とくに若月が強調したのは送球だ。独自のテークバックや投げ方があるそうで「独特な体の使い方があるので、それを真似するのではなく、コーチの指導を聞いて技術を高めるように」との言葉を添えたという。ボールをそらさないキャッチングや正確な二塁への送球、マウンドの投手とのコミュニケーションなど、一挙手一投足を見逃すまいと凝視する村上を突き放すような言葉だが、村上は「若月さんと僕では体の大きさなどが違います。全部が全部、見様見真似ではいけないと思っています」と前向きに捉える。
村上は「1番のアピールポイントは、見る人を虜にするスマイルです」と入団会見で笑いを誘ったことがある。笑顔とともに、練習中に大きな声を出してチームを鼓舞するスタイルでアピールしてきたが、今季は大きな声を控えるようになった。「目立ちたいというのがあったのですが、それじゃ形だけだなと。きつい練習の時には大きな声を出しますが、野球がうまくなるためにも技術の取得に集中しようと思っています」。
課題としてきた打撃も、1年間のトレーニングなどで、強い打球を打てるようになってきた。「ウエートも毎朝していますし、体が強くなって打球に力強さも出てきたと思います」という。堅実なプレーで投手を助ける若月に追いつくために、今日も汗を流す。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)