中日23歳を襲った悪夢…左肩の「感覚がない」 地獄を感じた激痛、早期復帰へ“奇跡の1か月”
左肩負傷から回復した中日・村松「チャンスは今しかない」
遊撃の守備で左肩を負傷した中日・村松開人内野手が、7月30日のヤクルト戦(バンテリンドーム)から1軍に復帰した。6月23日の広島戦(同)で怪我をし、完治まで早くても2か月、実戦復帰見込みまでは3、4か月と今季中の復帰も危ぶまれていた。劇的な回復を見せた背景にあったものとは……。村松の1か月に迫った。
復帰を目前に控えた7月24日。村松を訪ねた。照りつける日差し。蒸し暑い室内練習場。負傷してちょうど1か月が経過した村松は反復練習を繰り返していた。「全く問題なくできています。想定の遥か上をいくくらいのペースで復帰できたので、ありがたい気持ちです」と表情は明るかった。
広島戦で三遊間への打球に逆シングルで飛び込んだ際、左肩を負傷し、交代。翌24日に名古屋市内の病院で検査を受け、左肩SLAP損傷(肩関節上方関節唇損傷)と診断され、治療に専念していた。
怪我がフラッシュバックするような恐怖心をなくすために、飛び込んでボールを捕球する練習も行った。ただ、1軍の試合でやってみないとわからない。「もう1回(同じ怪我を)やってしまうのではないかというのはありますが、それを気にしていたら、プレーの質が下がったりするかなと思うので……」。
プロとしては当然の覚悟かもしれない。だが、もうひとつ、思い切りプレーができるという揺るがない理由がある。「治してくれる人がいるので……」と感謝の言葉が口を突いた。
今季から西武で4度の盗塁王に輝いた片岡保幸氏(現役時代は治大、易之)を指導した安福一貴トレーナーに師事。オフには母校・明大や都内にある安福氏のトレーニングジムで練習を行った。個人で契約し、キャンプ期間中は体のケアも行った。
村松は怪我をした瞬間、「左肩の感覚がなくなり、やばいと思いました」と振り返る。すぐに連絡をすると安福氏は東京から名古屋まで飛んできてくれた。キャンプで体が不調な時にケアを依頼し、「こんなに変わるのか……」と衝撃を受けたことがあった。片岡氏が怪我をした時の話も聞いて、向き合い方を学んだ。「何かあったら、いつでも言ってな!」。そうかけられた言葉が頭に残っていた。
異例ともいえる1か月の戦列復帰、支えた“スペシャリスト”たち
24日のうちに、安福氏による手技を使った独自のケアが始まった。患部を刺激されると激痛が走った。「経験したことのないような痛みでした。地獄でした。怪我した時よりも痛かった」と今も思い出すだけで苦悶の表情を浮かべるほど、強度なものだった。耐えて、耐え抜いた。
なぜ、そのような痛みに耐えられたのか。「炎症とか痛みとか悪いモノっていうのは無理をしてでも、痛いくらいじゃないと治らないですから。それに信頼して任せられる。仮に悪くなっても(安福トレーナーなら)いいやと思えた」と覚悟を決めた。
翌日、痛みが消えた。左肩の感覚が戻った。「動きが全く変わりました。そこから良くなってきました」。次第にキャッチボールや打撃の動きを入れても違和感はなくなり、不安が消えた。
球団のトレーナーへの感謝も忘れない。動けるようになってからも「毎日のようにケアをしていただけました」と頭が下がる思いだった。患部だけではなく、心のケアもしてもらっていた。プロ野球選手は戦列を離れると感じる“孤独”があるからだ。
自分がいなくてもシーズンは進んでいく。中日は戦力になれる内野手が多くいるのも事実。村松は「こっちの方もやっぱりあったので……」と自分の胸を指した。この1か月、心の葛藤もあった。本当に戻ることができるのかという不安はその日が来るまで拭えない。球団トレーナーからは、焦らないことや我慢することを教えてもらった。体だけでなく、心もほぐしてもらうことができた。
村松と同じ怪我をしたケースで、復帰まで4か月かかった選手もいると聞いた。異例とも言える1か月の早期復帰。その裏には心と体を支える“スペシャリスト”の懸命なケアがあった。固くなった絆と感謝の気持ちを強くした。
とはいえ、ファンからすると、嬉しい反面、焦らずに戻ってきてほしい思いもあった。
その思いを問うと村松は首を横に振った。「これだけ内野手がいて、僕はレギュラーを確立したい、逃したくないという気持ちでやってきました。チャンスは今しかないので」。安静を選択し、リハビリの期間が長くなると、いつも戻れるかが不透明になる。シーズンはあっという間に終わってしまう。野球人生も終わってしまう危機感を持っていた。
実戦復帰した2軍戦では、多くのファンに迎えられて好プレーも披露した。ダイビングキャッチもあった。「本能ですね。怖さはなくなってくると思います。今度は同じことをしても怪我しないフィジカルを作ることが目標です」と笑った。ひとつの怪我から、村松は一回り、大きくなって帰ってきた。
(Full-Count編集部)