伸び悩み阻止へ…小学生で体得したい“能力”とは? 非公表種目で発掘する「隠れ逸材」
巨人ジュニア選考での実施種目に見る、小学生が早期に身に付けたい“自在な力”
将来の野球技術上達へ、さらには伸び悩み阻止へ、子どもたちが今のうちに取り組んでおくべきことが見えてくる取り組みだ。各球団で最終局面を迎えている、全国の有望小学生がNPB球団と同様のユニホームを着用して頂点を争う、「NPB12球団ジュニアトーナメント」(12月26~29日開催)のセレクション。2014年大会以来の優勝を狙う巨人ジュニアも、6~7月に4段階の選考過程を行い最終メンバーを決定したが、選考ではいわゆる“野球らしさ”意外の能力も試されていた。果たして、実施種目の意図するものとは……?
7月下旬、強烈な夏の日差しの中、神奈川県川崎市の読売ジャイアンツ球場には、1次の動画選考をくぐり抜けた小学生たちが、色とりどりのユニホーム姿で集まっていた。この日の2次選考には午前・午後に分けて、それぞれ100人ほどが参加。「緊張している? 緊張は悪いことではありません。今までやってきたことを、しっかりと出してください」。巨人ジュニアを率いる西村健太朗監督の言葉でセレクションはスタートした。
巨人ジュニアの申し込み資格は、全国の小学6年生で、50メートル走7.5秒以下、または遠投65メートル以上(軟式の場合)など。1次では、応募者から送られてきたキャッチボールや打撃、投球、守備、走塁などの動画を吟味したが、実際に生で選手たちを見るのは、首脳陣にとってこの日が初めてだ。
では、その選考の中身とはどのようなものか。打球を飛ばす、強い球を投げる、速く走る、華麗にボールをさばく……。いわゆる“野球らしい動き”を確認するのかと思ったが、決してそれだけではなかった。
実は、選考種目は“非公表”のため詳細に書くことはできない。それでも、関係者の話を総合すると、例えば次のような能力を試す内容となる。
・物体の位置関係を素早く認識し、正確に判断して動けるか
・下半身と上半身との連動をしっかり使えているか
・連続して大きな力を生み出すことができるか
・見本で示した動きをその場で理解し、再現することができるか
行き着くキーワードは「コーディネーション」。つまり、自分の体を自分の意思で、思うように動かせる能力があるか、ということになる。
運動神経の発達へ…野球だけでなく「いろいろなスポーツを」
成長段階が個々で異なる小学生では、単に強い球を打つ、速い球を投げるだけの判断では、体の大きい“早熟型”ばかりが、ジュニア入りに有利になってしまう。
しかし、コーディネーション能力については、決して早熟な子が高いとは限らない。普段から、野球に限らず様々な運動をしていなければ身に付かないものだ。実際に、ある種目で高い数値を出した選手に話を聞くと、「自分のチームでも普段から、ウオーミングアップで似たようなメニューを行っています」と話してくれた。目で見てわかるパワーだけでは測れない、“隠れた逸材小学生”を発掘する鍵がコーディネーション能力といえる。
巨人ジュニア選考では、大学教授ら専門家の意見を取り入れながら、3年ほど前からコーディネーション系の種目を取り入れているという。そして、集めたデータは選考の参考にしつつ、平均値やプロ野球選手の数値例と共に参加者全員にフィードバックもしている。「打つのは苦手でも敏捷性が高かったり、子どもたちそれぞれに特性や良い部分があります。ジュニアに選ばれなかったとしても、データを見て『自分にはこういう能力があったのか』という新しい気づきにもなると思います」と西村監督は語る。
小学生の特に9~12歳は、一生のうちで最も運動神経が発達するといわれる「ゴールデンエイジ」と呼ばれる年代だ。しかし、特に早熟型の子は、そこで力頼りになって“身のこなし”が育たず、中学・高校と上のレベルに行くにつれて伸び悩みにつながるケースは多い。
それを防ぐためにも、コーディネーション能力の習得は早いに越したことはないし、外遊びが減っている現代っ子たちは特に、多様な体の動きができる機会を積極的に持ちたい。巨人ジュニア代表で、今年発足した「U15ジュニアユース」代表も務める大森剛氏は、「この(小学生)世代には、野球だけでなく、いろいろなスポーツをやらせた方がいい。実際に、身にこなしが上手い子、データが良い子は、早いうちから他のスポーツも取り組んでいる子が多いです」と説明する。
小学生の時点で野球が上手かどうかではなく、将来的な成長も見据えてどのような指導やアドバイスができるか。実に参考になる、巨人ジュニアの選考である。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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