山下舜平大の“救援挑戦”に滲むコーチの親心「肌で感じること」…賭けた将来の10勝
オリックス・山下舜平大の“復活”を願った救援挑戦
我が子を千尋の谷に落とす獅子の心境だった。オリックス・厚澤和幸投手コーチが、今季の途中で救援挑戦を果たした山下舜平大投手への思いを改めて語った。「あの1敗が、のちに彼の『10勝』に値すればいいと思いました」。いつも通り、静かな口調で厚澤コーチが振り返ったのは、7月20日の楽天戦(ほっともっと神戸)だった。
制球を乱し、本来の投球を見失っていた右腕。3度の出場選手登録抹消を経て、中継ぎへの一時的な挑戦を決断した。2-2で迎えた延長12回。5番手で送り出した山下は、先頭打者にストレートの四球を与え、1死二塁から阿部寿樹内野手に適時打を許して負け投手になった。2軍戦で3試合に救援登板したとはいえ、プロ入り初の救援登板として送り出すには厳しい場面だった。
ただ、厚澤コーチは「(点差の開いた)緩い場面では意味がありません。蓋を開けてみないとわからない世界なので」と成長を願い、試合を託す思いだった。山下は3試合に救援登板し、防御率13.50。その後に登録抹消となったが、再昇格後の8月18日の日本ハム戦(京セラドーム)から先発に戻って3連勝。制球よくストレート、カーブ、フォークの緩急で三振を奪う本来の調子を取り戻した。
厚澤コーチは「短い期間だったんですが、彼はリリーフの期間にいろんな経験をしたと思うんですよ」という。救援挑戦の理由などは山下に説明しなかった。「あえてこちらから言うことではありません。自分の目で、自分の温度で、自分の肌で感じることってたくさんあると思いますから」。荒療治であっても、試練に耐えて必ずはい上がってくるという期待感と、強い信頼関係があるからだった。
山下は救援での1敗について「自分が野球を続けて、結果が出た時に『ああいうことがあったから』って言えると思います。中継ぎで12回のアタマから投げるということが、あれだけきついことかと気付けたことはプラスです。あのような状況で、あんな打たれ方をしたことも、いい経験になりました」と振り返る。
「彼は、3年後には誰からも文句が出ないくらいのエースになってくれないと困るんです」と常々、口にする厚澤コーチ。3年後に向けてリスタートした山下を厳しくも、温かく見守っている。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)