帰宅直後に鳴った電話、察した戦力外通告 5月の怪我で「終わった」…7月末に失った目標
プロ入り4年目の戦力外「当然っちゃ当然かな、っていう感じ」
すでに気持ちは前を向いている。25歳左腕の表情はスッキリとしていた。「結構日にちが経ったので、頭の整理はできたかなって感じはあります」。慶大から2020年育成ドラフト1位でソフトバンクに入団した佐藤宏樹投手は今オフに戦力外通告を受けた。アマチュア時代は上位指名候補とも言われる素材だったが、ドラフト直前にトミー・ジョン手術を受けて育成でプロ入り。2022年に2軍で公式戦デビューを果たしたが、在籍4年間で2軍戦登板は計6試合にとどまり、1軍のマウンドに立つことはできなかった。
電話が鳴ったのは1軍のレギュラーシーズン全日程が終了して間もない10月6日のことだった。家に帰り着いた直後のタイミングに、「なんかもう驚く間もなかったっていうか……。前もってドキドキとかしている間もなかったので」。スタッフから翌7日に球団事務所へ来るように伝えられた。戦力外となることを察した瞬間だった。
「当然っちゃ当然かなっていう感じはありました。今年は大丈夫だろう、みたいな考えは正直なかったです」。冷静に受け止められたのは、去年から危機感を抱いていたからだ。だからこそ、去年も今年も全力で挑んできた自負はある。1年目は術後のリハビリに専念し、2年目に実戦復帰を果たした。勝負をかけた3年目からの2年間を振り返る。
「3年目は怪我なく1年間投げて、2軍に定着しようっていう目標だったんですけど、結局は3軍で1年間終わってしまった。2軍で投げるには(育成選手の出場は5人までという)枠の問題もあったし、自分自身がそこの選手(の実力)を超えられていたかと言われると、ちょっと怪しいところもあったので。3年目のオフにウインターリーグも経験して、もう本当に(4年目の)来年はいけるなって。あまり自信を持つタイプではないんですけど、手ごたえを持ってキャンプから臨んで来られました」
今年は支配下登録に向けて勝負ができるという感覚を掴んでいた。だが、5月に腹斜筋を負傷。支配下登録期限まで2か月ほどの時期だった。「全治3か月って聞いた時に、一瞬気持ちが切れたというか、『終わったな』って。でも、できることをやろうと思って、いろんな人に話を聞いて、結局1か月くらいで治ったんです。『あ、行ける』と思って、急いじゃって……。結局、肩が追いつかなくなった」。焦りとともに左肩の状態は悪化していった。
7月末にチームは4選手を支配下登録…「ちょっと怪しいなって」
心身ともにストレスを抱える中で、7月末には4選手が支配下に昇格した。そのうち、前田純と三浦は自身と同じ左腕だった。「その時にちょっと怪しいなって思いましたね。左(投手)が2人支配下に入って、しかも僕より年下だったので。『そうだよな』みたいな。その時くらいが1番『ああ……』ってなりました。でも、どのみち投げられていないから。投げていて競争に負けたら、もっと悔しかったと思うんですけど……。かといって悔しくないかと言えばウソになる。その時が1番キツかったですね。8月に入ってもリハビリ組にいて、何を目標に(やればいいのか)みたいな感じになってしまった。今年でクビになってしまう可能性もあるのにって」。精神的にも相当堪えていた。
そんな時に支えてくれたのは森山良二、中谷将大両リハビリ担当コーチを初めとするスタッフ陣だった。「リハビリ(担当)の人たちが『最後まで頑張ろう』『今、頑張らないと、この先なにも繋がらないから』って言ってくれて。もう1回立ち上げることができました」。その中でも森山コーチは「僕のことを一番見ていてくれた。シャドーピッチングを毎回付きっきりで見てくれて、僕の気持ちが落ちている時には励ましの言葉やゲキをくれました」と感謝する存在だ。
現在は11月14日に行われる12球団合同トライアウトに向けて練習を続けている。「(戦力外通告を受けて)最初はまだ実感が湧かないというか、練習には来ているけど、いまいちピンときていない感じがあったんです。でも、トライアウトが近くなるとともに、徐々に気持ちが入ってきました。やらなきゃなっていう感じです」。今は迷いも邪念もなく前に進んでいる。
リハビリ明けでトライアウトが復帰戦となることへの不安はある。「自信がないことはないですけど、試合から離れているので。でも自信を持たないと、何をやっても上手くいかないのは、この4年間で感じてきた。落ち込んだり、気持ちが落ちたりした時に、パフォーマンスもダメになるので。自信をつけるためにも、上手くなるためにも、毎日練習をしている。そこをプラスに捉えて、トライアウトで投げられたらいいなと思います」。佐藤宏の言葉には自然と力がこもる。
練習相手は同じく戦力外通告を受けた村上舜投手。「初日はリハビリ明けで怖くて、ボールは投げられるけど、あまりいい球がいかなくて。2時間くらい村上と試行錯誤しました。アイツは正直にガンガン言ってくれるんで助かるんです。『いいよ、いいよ』って適当に言われるより、どんな風に見えているかが分かって。それでどんどん投げられて、ピッチングまで入って行けました」と感謝する。
3軍の頃からキャッチボール相手になることが多かった村上は、佐藤宏の良い時も悪い時も知っている。「プレイヤーとしての立場で、自分のボールを1番捕ってくれているから、あいつの言葉はすごく入ってきやすくて。不安なく投げられるようになってきました」と背中も押された。支えてくれる多くの人がいる。その思いも背負って挑み続ける。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)