広場恐怖症と戦力外は「関係ない」 元ロッテ左腕の今…“エース”として投げ続けるワケ
永野将司はロッテを2021年限りで戦力外となり「全府中野球倶楽部」へ
クラブチーム「全府中野球倶楽部」のエースを務めるのが、2018年から4年間ロッテに所属した永野将司投手だ。今夏の全日本クラブ選手権大会関東予選を制し、14大会ぶりに同大会出場に導いた左腕。プロ時代に「広場恐怖症」を告白したが、31歳の今も病気と闘いながら腕を振る。
「仕事と週2の練習にようやく慣れた感じですかね。今は力まず投げられているので、コントロールはプロのときよりいいですよ」。そう言って笑う表情は明るい。月曜から金曜までは会社員として事務の仕事を行い「伸び伸びやらせてもらっています」と充実の日々を送る。しかし、通勤は自転車かマイカー。通勤電車に乗ることはない。不安障害の一つである広場恐怖症だからだ。
2017年ドラフト6位でHondaからプロ入り。1年目に1軍デビューを果たしたが、飛躍を期した2年目は春季キャンプ地の沖縄・石垣島に行く飛行機に乗ることができなかった。同年からキャンプ期間中は1人、関東で居残り練習。2019年に広場恐怖症であることを告白した。プロ通算22試合の登板で0勝1敗、防御率4.30。4年目の2021年は1軍登板なしに終わり、戦力外通告を受けた。
永野は「ロッテには本当に感謝しかないんです」と振り返る。広場恐怖症であることを理解したうえで指名してくれたこと、遠征時のマイカー移動を許可してくれたこと……思いは尽きない。「戦力外になった4年目は肩が痛くて、2軍での防御率も8点台(10試合で8.10)。結果を残せなかったので、病気とは関係ないと思っています」と現実をしっかり受け止めていた。
「今野球を辞めたら何が残るんだろう。発信できるならし続けたい」
今も、ほかの人と同じように生活するのは困難な面もある。大会などの際には不都合も生じる。それでもユニホームを着てマウンドに立つ。その理由は、単純明快だった。「僕、野球が好きなんですよ」。
そしてもうひとつが、周囲から届く声だ。「ロッテ時代に病気を公表してから、結構反響がありました。与える側と与えられる側、2種類の人がいると思っているんですけど、僕は与える側だと思っているので、少しでも投げる姿を見せたい。『投げている姿に感動しました』みたいに言ってもらってありがたかったので、もう少しやろうかなと思っています」。
休日にはなるべく電車に乗ることを心掛け、短い距離から乗り越えつつある。「少しでも慣れていけるように。向き合いながらやっています」と前を向く。7月には人気ロックバンド「ONE OK ROCK」のボーカル・Takaさんが広場恐怖症であることを自身のインスタグラムで公表した。「そういう人も逃げずに頑張っている。僕も、今野球を辞めたら何が残るんだろう、みたいな。発信できるなら発信し続けたいなと思います」と“使命”を口にした。
「自分が体が動くうちに全国で優勝できるように、それで引退したいです」。永野にしかできないことが、きっとある。大好きな野球で、まだまだそれを表現していく。
(町田利衣 / Rie Machida)