必要だった“発想の転換” 異例の取り組み…川島慶三コーチが伝授する「野手目線」
オリックス・川島慶三打撃コーチが伝授する「野手目線」
発想の転換でV奪還だ。オリックスの秋季キャンプで、現役時代に高い盗塁技術で知られた新任の川島慶三打撃コーチが投手陣に牽制術を指導し、チームの総合力アップに一役買っている。
「ピッチングコーチが投手に全部教えるという風習が染みついていますが(担当は違っても)これまで相手球団にいた人に野手目線で教えてもらえば、そこにヒントはたくさんあると思いました」。川島コーチに指導を依頼した厚澤和幸投手コーチが、異例の取り組みを説明した。
第1クールで投手陣がウォーミングアップ、キャッチボールを終えサブグラウンドで牽制のメニューに入ると、川島コーチが姿を見せた。説明後、一塁走者になって投手と対峙した川島コーチが、3球目にスルスルとリードを広げスタートを切った。
ほぼ初見の若手投手に対し、わずか2球の投球動作で間合いを図り、牽制がないと見破った眼力に投手陣から感嘆の声が上がった。ある投手には「腕の位置で本塁へ投げるか、牽制するか癖でわかる」と指摘してみせた。
川島コーチは佐世保実高、九州国際大から2005年大学生・社会人ドラフト3位で日本ハムに入団。171センチ、74キロながら、高い走力とパンチ力を兼ね備え、ヤクルトに移籍した2008年にはリーグ7位の20盗塁をマークしたこともある。
2008年の盗塁失敗は「雨の甲子園でヒット・エンド・ランを外されてアウトになった1個だけ」(川島コーチ)という“失敗しない男”。投手の癖などをつかむ能力に長けていたことから、日本ハム時代に接点のあった厚澤コーチが、担当の枠を超えて依頼したのもわかる。
「やっぱりアウトにはなりたくないんで、投手の癖や傾向などセーフになる根拠を探していました」と現役時代を振り返った川島コーチ。投手陣には「牽制の動きを見せるだけで、走者は走りにくくなる。捕手とサインのやり取りをしている途中の牽制も有効」など、走者の立場から走りにくい投手の一例や、投手が無意識に行っている動作など具体例を挙げて指導した。
「チームが勝つためにも投手が牽制の意識を深く持つことも必要です」
阿部翔太投手は「癖などには気を付けていますが、具体例を挙げて指導していただいたので、牽制に対する意識が深まりました」と感謝する。
今季、育成契約から支配下選手登録に昇格しプロ初勝利を挙げた佐藤一磨投手は「反応がすごいですね。僕らがピクッと動いた瞬間にもうスタートを切っていましたし。初めての投手に対して、情報がなくてもチェックするポイントがあるから、ある程度わかるのでしょうね。目付のレベルが違います。対戦するとなればもっと研究してくるから、こちらもそれを逆手に取らないといけませんし、勉強になりました」と目を輝かせた。
練習を見守った岸田護監督は「いい練習だと思います。野手目線で指導してもらって、そのくらい走者はピッチャーのことを見ているんだよ、というところは投手陣も興味を持って取り組めたのでよかったと思います。(担当分野だけでなく)全体でいいものがあれば、どんどん取り入れていくことはよいことだと思います」と新しい試みを評価している。
オリックスの捕手陣には今季、盗塁阻止率リーグトップの若月健矢捕手や森友哉捕手、石川亮捕手のほかウエスタン・リーグで、1試合で6つの盗塁を刺した福永奨捕手が控えているが、投手の牽制への意識が高くなれば盗塁阻止率が上がり、チームの失点も少なくなる。
川島コーチは、楽天で2年間、1軍打撃コーチを務めたが投手に牽制を指導したことはないそうで「打者がそんなに点数を取れない時代になってきていますから、チームが勝つためにも投手が牽制の意識を深く持つことも必要です」と効果を期待する。総合力アップにチームを挙げて取り組む先に、優勝への道が続いている。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)