電撃辞任で脳裏によぎった「一緒に辞めよう」 水本ヘッドがチームに残った“意味”

オリックス・水本勝己ヘッドコーチ【写真:荒川祐史】
オリックス・水本勝己ヘッドコーチ【写真:荒川祐史】

オリックス・水本ヘッドが臨む“5年目”の覚悟

“対話”の重要性を説く。オリックス・水本勝己ヘッドコーチが、2021年から3連覇の後、今季5位に沈んだチームの立て直し最重要項目に「コミュニケーション」を挙げた。「どうやったら(野球が)うまくなるのか、コミュニケーションが大事だと思います。僕も就任1年目以来の個人面談をやりました」。冷静に足元を見つめ直す。

 広島で長く2軍監督を務め、ファームでの対戦などを通じて親しかった中嶋聡前監督が1軍監督に就任する際、請われて新天地に飛び込んだ。「僕と野球観が同じ」と中嶋前監督が公言するほど、補佐役としてうってつけのポジションだった。チームの伝統などに気遣うことのない“外様”の立場。「勝つ喜びを知ればチームは変わる」との思いから、常に大きな声で厳しい言葉を投げかけ選手たちを鼓舞し続けた。

 就任1年目で25年ぶりのリーグ優勝。2年目には日本一にも導いた。「勝つ喜び」から、「負ける怖さ」を知った選手たちは、3連覇も成し遂げた。それだけに、今季5位に終わった中嶋前監督が退任時に指摘した、チーム内に生まれた「慣れ」という言葉に、補佐役として自身の進退について葛藤があったという。

「(監督が)退任すると聞いた時には、一緒に辞めようと思いました。でも、僕は『弱いから辞める』という考えは、昔からちょっと違うと考えていました。中嶋監督の考えが100%わかるわけではありませんが、選手が一生懸命やっていなかったから、監督は辞めたのではないと思います。『今年はもう諦めた』という選手は誰一人いませんでした。それでもチームがうまく回らないこともあるんです。僕自身も、結果が悪くても真剣に向き合ってきましたから、またやらせてもらえるなら、もう1度トライしなくてはいけないと思うようになりました」

 責任の取り方についての思いを一気に吐き出した。恥ずべき行動がなければ、結果を厳粛に受け止め、反省すべきところは反省してチームを立て直す責任があるという考え。批判も覚悟の上だ。「シーズン143試合、3連覇した時にも、もちろんそういう時はあったと思います。でも勝ったからみんな言わないだけで、いろいろあっても3連覇は達成できたんです。もしかするとファンの方はいろいろ言われているのかもしれませんが、チームの過程が見えないのだから仕方がありません」とあえて理解を求めようとはしない。

「選手の意識は、今年も変わっていなかったと思います。油断とか慣れとかという言葉で表すのは好きではないのですが、『(今年も)できるだろう』というのが出てくるんです。これはどんな組織でも起こり得るんです。そんなすごい人間なんてなかなかいませんから」

「ゲームに勝つため、真剣な選手のため、チームを強くするため」

 だからこそ感じたのが、コミュニケーションの大切さだ。「がむしゃらにやっていた部分から、自分で“線”を引ける立場になった選手が多くなりました。今、自分の線の引き方がどこだったということを反省しなければなりません。もう1回、みんな(初心を)思い出そうよと」。大阪・舞洲での秋季練習中に部屋を取って選手と面談し、岸田監督の目指す野球などを説明し、選手の考えを聞いた。コーチにも「選手に(目標などを)しゃべらせてくれ」と指示を出した。

「しゃべるということはすごく勇気がいることなんです。実行することに対しての自信がないと、言えないことがあります。口に出すことで責任が生じますから、いろいろ考えてやっていくいい機会になります」と、コミュニケーションが選手の自覚にもつながると強調する。

 高知での秋季キャンプでは、選手のアップ中にコーチ同士が話し合い、練習方法を変更するなど指導者間のコミュニケーションも以前より図った。「量も増えましたが、いろんな工夫をしていましたね。ゲームに勝つため、選手のため、チームを強くするためにコーチみんなが協力してくれました。全員が頭で考え、行動をどう起こすかが僕らの仕事。答えがないから苦しいですが、やってみます」。43歳の岸田監督を56歳のヘッドコーチが支えて、再び頂点を目指す。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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