「あ、来たな」戦力外直後、家で流した涙 娘に手渡された1枚の紙…妻と二人三脚のプロ生活

元ロッテ・上野大樹氏【写真:本人提供】
元ロッテ・上野大樹氏【写真:本人提供】

ロッテで広報を務める上野大樹氏…7年目に戦力外通告を受けた

 ロッテの広報を務める上野大樹氏は、2015年に戦力外通告を受け、野球人生に区切りをつけた。一家の大黒柱に訪れた“人生の岐路”。支えてくれた家族の行動に、思わず涙があふれた。

 のちにプロ入りする兄・貴久さんの影響で野球をはじめ、帝京高を経て、東洋大では、日本ハムなどでプレーした大野奨太捕手らとともに4年時に4冠を達成。同年のドラフト3位でロッテに入団し、1年目から16試合に登板した。

 伊東勤監督が就任した2013年からはリリーフとなり、同年はキャリアハイの42試合に登板。2014年も31試合に登板したが、前年の倍となる12本塁打を被弾、防御率も4.47だった。

 プロ7年目の2015年は危機感を持って臨んだ。しかし、2軍で好投しても昇格できない日々が続く。「これはどうしたらいいのかなと悩みながらやっていた1年でした。先発ならノーノーするくらいの極端な成績を残さないと昇格できないと思っていましたし、体力も気力もすり減らしながら」。決意を胸に2軍では38試合で2勝3敗、防御率は1.58を残したが、1軍では2登板に終わり、薄々予感していたことが現実となった。

「7割覚悟してて、3割はフワフワしている気持ちみたいな。『あ、来たな』という感じでした。宣告されてから1か月、2か月のことはちょっと記憶が薄くて……。僕の中で消し去ろうとしているのかもしれないですけど」

出迎えてくれた妻と1歳の娘「前を向けました」

 なかなか1軍に上がれなかった2015年、いつも励ましてくれた妻に電話で戦力外を受けたことを伝えると、「仕方ないね。また頑張ろうね」と前向きだった。家に帰って玄関のドアを空けると、待っていたのは1歳の娘。手には1枚の紙を持っていた。

「まだ全然文字も書かけないのに。一生懸命に書いた紙をくれて」。文字は読めなくても、自然と内容は理解できた。妻も「つらい時は家族で支えあって頑張ろうね」と一言。思わず涙があふれた。

 練習熱心で真面目な人柄。プロ2年目に結婚し、野球への取り組み方も大きく変わった。「背負うものができて、自分のため以外にもやらなきゃいけない理由ができた」。なかなか1軍に上がれなかったシーズン中も、妻はいつも「頑張ろうね」と励ましてくれた。「また頑張らなきゃなって。前を向けました。背中を押してくれて」。

 プロ野球生活は、奥さんと二人三脚でやってきた。増量したい時にはたくさんの食事が食卓に並び、減量したいと言えば、レシピ本を買って味の薄いヘルシーな料理を一緒に食べてくれた。球団の広報を務める今も、試合の日は帰りが深夜になることもしばしば。「家庭を守ってやってくれているので、奥さんには本当に感謝はしかないですね。頭が上がりません」。

 トライアウトを受験し、その後引退を決断した。球団からの打診もあり、ジュニアアカデミーのコーチなどを経て、現在は球団広報を担当している。2人の娘もマリーンズファン。支え支えられ、第2の人生を生きている。

(上野明洸 / Akihiro Ueno)

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