引退直前に譲られた名手の逸品 茶野篤政、小田裕也から受け継いだ“宝物”

オリックス・茶野篤政【写真:北野正樹】
オリックス・茶野篤政【写真:北野正樹】

オリックス・茶野篤政が譲ってもらった小田裕也コーチの“宝物”

 引退した先輩のグラブで、堅守を継承する。オリックスの茶野篤政外野手が、昨季限りで現役引退した小田裕也成育成コーチから譲ってもらった“宝物”で守備力アップを目指す。「めっちゃ良いグラブなんです。はめたらフィーリングがすごくよくて、捕りやすいんです」。茶野が愛おしそうに「50 Yuya」と刺繍されたグラブをそっと手で包んだ。

 2024年最終戦となった10月6日の楽天戦を前にした大阪・舞洲の球団施設内の選手ロッカールーム。宮崎フェニックス・リーグへの荷物を出しにきた茶野に「1番使えるグラブ、あげるわ」と小田コーチが手渡してくれた。松井佑介外野守備・走塁コーチが、茶野に「小田と同じ型のグラブを作ってみたら」というアドバイスを送っていたのを、間近で聞いていた小田が覚えていたのだった。

 小田コーチは東洋大、日本生命から2014年ドラフト8位でオリックスに入団。俊足を生かした広い守備範囲と正確な送球を評価された外野手で、外野も守ることのある中川圭太内野手が「1歩目のスタートの切り方や、どちらの足でタイミングを取るのか、中堅と左翼の1歩目のスタートの違いなどを教えてもらいました。それを練習で試してみると『なるほど』と思うことばかりで、本当に勉強になりました」というほどの守備のスペシャリストだ。

 小田コーチが優しく説明する。「使っているグラブのメーカーが、同じSSKということもあって、松井コーチと茶野がシーズン中に僕の前でそんな話をしていたのを知っていました。グラブって作るのに時間がかかるんです。また、革の質によっても変わってくるので、現役を引退することが決まってから、茶野に使ってもらおうと思ったんです」。

 松井コーチが薦めた小田コーチのグラブは、外野手としては小ぶり。茶野によると「ポケット」と呼ばれるボールを受ける面の位置が自分のグラブとは全然違うという。小田コーチは自身のグラブについて「走りやすさと扱いやすさで、小さくしていました。片方の手にグラブをはめると元々バランスが悪いので、大きいとさらにバランスが悪くなるんです。極力小さくした方が軽くて走りやすいし、ゴロを捕球して送球する際も、小さい方が内野手のようにボールを持ち替えやすいんです」とこだわりを語る。

小田育成コーチの思い「守りのレベルが高いチームになってほしい」

 茶野に譲ったグラブは、1軍の試合で使ったことのない“2番手”だが、メーカーから納められるグラブの中で小田コーチが厳選した逸品。2年ほど使い、しっかり手になじんだものだっただけに、茶野の守備力向上への期待の高さがうかがえる。

 そのグラブが効果を表したのが、昨年10月6日に行われた雨中の楽天戦。初めて小田コーチのグラブで出場した茶野は、3回に先頭・小深田の右中間へのライナーをダイビングキャッチする超美技で、防御率のタイトルを競っていた宮城大弥投手を助けた。茶野は「小田さんのグラブの効果がありました」と声を弾ませた。

 今季から指導者になった小田コーチは「打てないで試合に負けるより、守備で負けた方が痛いんです。茶野だけでなく、捕れるボールが捕れるように。守りのレベルが高いチームになってほしい」と抱負を語る。イチローさんや前外野・守備走塁コーチの田口壮さんらで鉄壁の守備を誇ったオリックス。伝統の系譜を、茶野も紡ぐ。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY