2軍で驚異の4割超→戦力外 涙の25歳が誓う“リベンジ”…古巣には「思うことない」
A班キャンプに抜擢されコーチも「体の力が強いという印象」と評価
ソフトバンクでチャンスに恵まれなかった選手が、またもや他球団で花開くのか。昨年限りでホークスから戦力外通告を受け、西武と育成契約を結んだ仲田慶介内野手。宮崎・南郷でのA班(1軍)キャンプに抜擢され、走攻守に躍動する背番号「140」の姿は、ひと際ファンや首脳陣の目を引いている。
「(西武には)まだちょっと、慣れていないです。福岡でギリギリまで自主トレをやり、所沢では5日間だけ最低限のごあいさつをさせていただいただけなので……」。恐縮しつつ、こぼれる笑顔が心身の充実ぶりを物語っている。
もともと内外野どこでも守れるユーティリティプレーヤー。今キャンプでは外野のノックでスライディングキャッチを見せるなど、ハッスルプレーが目立つ。打ってはスイッチヒッターで、右でも左でも力強い打球を飛ばしている。仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチは「決して大柄ではありません(身長175センチ)が、体の力が強いという印象。足も速いですね」と注目している。
昨年球団ワースト記録の91敗を喫し最下位に沈んだ西武では、外崎修汰内野手の守備の負担を軽減して打撃に集中させようと、三塁へコンバートし、二塁のポジションがぽっかりと空いた格好だ。外野も成長途上の若手がひしめいているものの“ドングリの背比べ”で、仲田には支配下登録はもちろん、一気にレギュラーの座をつかむチャンスまでありそうだ。仲田本人は「どのポジションが得意とかはありません。とにかく泥臭く、しぶとい打撃とか、球際の強さとかをアピールしていきたいです」と力を込める。
福岡大大濠高、福岡大を経て、2021年の育成ドラフト14位でソフトバンク入りした。同年のドラフトで支配下、育成を通じて最後の128番目に指名された選手だった。それでも地道に実力をつけ、3年目の昨年3月、ついに支配下登録を勝ち取り、開幕1軍メンバーにも選ばれた。
鷹から育成再契約打診も固辞…選んだ他球団での再出発
結局昨年1軍では24試合出場、打率.214(14打数3安打)にとどまった。とはいえ、イースタン・リーグでは24試合出場で驚異の打率.403(77打数31安打)、1本塁打11打点をマーク。ただものではないことをうかがわせた。だからこそ、25歳に対する戦力外通告には、本人もファンも驚いた。テレビカメラの前で思わず「絶対にもう1度這い上がってやるという気持ちです」と涙を流した。
ソフトバンクは育成選手としての再契約を提示したというが、「2軍で本当に死ぬ気でやってきて」ようやく支配下登録と1軍昇格を勝ち取った仲田は、1年もたたずに育成への逆戻りを提示されたとあって、首を縦に振ることができなかった。西武からオファーを受け、同じ育成契約の提示ではあったが、新しい環境で1からやり直す決意を固めた。
そんな仲田の姿に、SNSには「いつかホークスのフロントを見返して欲しい」、「試合でホークスを苦しめて後悔させてやれ」といった声も上がっている。「そういうものも、いくつかはたまたま目にしました」と言う仲田だが、一方で、古巣のソフトバンクについては「思うことは特にありません」と気持ちを切り替えている。
ただ、膨大な数の育成選手を抱え、生存競争が途轍もなく厳しく、さらに最新鋭の施設と機器、数多くのコーチ、スタッフをそろえているソフトバンクには、チャンスにさえ恵まれれば、すぐにでも1軍で活躍できる人材がまだまだ埋もれていると見られている。ソフトバンクでの5年間で1軍出場なしだった水谷瞬外野手が、現役ドラフトで日本ハムに移籍した昨年、いきなりセ・パ交流戦で史上最高打率.438(64打数28安打)をマークしてMVPを獲得。オールスター出場まで果たしたのは、その証明だ。
仲田は「(ソフトバンクで)チャンスが少ないのは確かでした。水谷もそうですが、リチャード(内野手)とか、チャンスがあれば数字を残せる選手はいると思います」とうなずいた。
古賀悠斗は福岡大大濠高時代のチームメート
一方、飛躍を期す仲田にとって心強い味方が、西武にはいる。正捕手で侍ジャパン・トップチームの常連にもなりつつある古賀悠斗捕手が、福岡大大濠高時代の同級生なのだ。3年生の春にはそろって選抜高校野球大会に出場した。古賀悠は「仲田は高校時代から、とにかく人一倍練習するやつでした。以前、ソフトバンクの小久保(裕紀)監督が仲田を『練習の虫』と評価されているという記事を読んだことがあり、自分も頑張らなければと思いました」と証言する。
仲田は「古賀は、わからないことをいろいろ教えてくれています。高校時代のチームメートとまた一緒にやれるのはうれしいです。古賀はもう1軍で活躍していますから、あとは僕がしっかり活躍して、同じ舞台に立ちたいと思います」とキッパリ。ブレークの条件は既にそろっているようだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)