秋広はなぜ飛距離が出ないのか…専門家が語る“覚醒の条件”「普通は飛ぶはず」

現役時代に通算2038安打を放った野球評論家・新井宏昌氏
22歳と若く、身長2メートル、体重100キロの超大型スラッガーには、大きな伸びしろがありそうだ。トレードで巨人からソフトバンクに移籍した秋広優人内野手の素質が開花するために、必要なものは何か。オリックスのコーチ時代にイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の育成にも携わった、野球評論家・新井宏昌氏が指摘した。
15日に移籍後初めて1軍登録された秋広は、同日の西武戦(みずほPayPayドーム)以降、4試合続けて「6番・左翼」でスタメン起用され、打率.250(12打数3安打)。今のところ、交換相手のリチャードが巨人で2本塁打を放っているのに比べると派手ではないが、こちらも新天地で生き残りを懸けてアピール中だ。(成績は18日現在、以下同)
巨人では原辰徳前監督時代の2023年、121試合に出場して打率.273、10本塁打41打点をマーク。規定打席にはわずか4打席足りなかっただけで、レギュラー定着は間違いないと思われた。翌2024年の宮崎春季キャンプでは、就任1年目の阿部慎之助監督、臨時コーチを務めたOBの松井秀喜氏(ヤンキースGM付特別アドバイザー)から熱い直接指導を受けたが、シーズンでは26試合出場、打率.261、0本塁打1打点と期待外れに終わった。今季も移籍前は打率.143(7打数1安打)だった。
新井氏は「秋広のような右投左打の打者は一般的に打撃の際、リードする右腕の使い方がうまいと言われますが、実は必ずしもそうとは限りません。ボールを投げるのとバットスイングとでは、腕を振る方向が逆になりますから。秋広の場合、右肘の使い方に鋭さが足りないなと思いながら見ていました」と語る。
「秋広はリーチがある分、普通に当たれば遠くへ飛ぶはずですが、右腕の力が弱く、押し込む左腕の力の方が勝るので、スイングがアウトサイドインになりがち。擦ったような打球になり、いい当たりをしたと思っても、意外に飛んでいないことが多いのはそのためだと思います」と指摘する。
自身は重りのついた鉄の棒を右腕1本で振り、イチロー氏は“逆手”でティー打撃
秋広躍進の鍵は“右腕の使い方にあり”というわけだ。新井氏は「右手の甲でボールを引っぱたく感覚を磨いてほしい。空手の“裏拳”のようなイメージです。現状ではインパクトの瞬間に右手の甲が上を向いているので、投手方向に向くようにしてほしいのです」と進言する。
新井氏自身も現役時代は右投左打で、通算2038安打を放ち、首位打者にも輝いた。また、オリックスのコーチ時代に1994年のイチロー氏のブレークに携わったが、そのイチロー氏も右投左打だった。「秋広も右手の甲を鋭く返す動きを訓練すれば、もっとバットのヘッドを利かせた打ち方ができるはずです。私は現役時代、ロッカールームで重りのついた鉄の棒を、肘をたたんで右腕1本で振る訓練を繰り返していました。また、現役時代のイチローが試合前によく、普段とは逆に、右手を上、左手を下にしてバットを握りティー打撃をしていたのも、同じ狙いでした」と説明する。
「右腕の使い方を根気よく教えてくれる指導者に出会えれば、打撃に変化が出てくるかもしれません」とも。“新しい出会い”の可能性に満ちているのが、トレードの利点とも言える。
「秋広と、交換相手のリチャードがお互いに新天地で1軍のレギュラーを獲得できた場合、本塁打はリチャードの方が多く打つでしょうが、打率は秋広の方が上に行くと思いますし、本塁打の方も20本くらい打ってバランスのいい成績を残す可能性が高いと思います」と新井氏。ウィン・ウィンの結果になれば何よりだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
