小中学生にデータは必要? 館山昌平氏が実践…動画撮影で知る“エラー”と正しい活用法

マルハン北日本カンパニーの監督を務める館山昌平氏【写真:小林靖】
マルハン北日本カンパニーの監督を務める館山昌平氏【写真:小林靖】

成長段階にある小中学生を守るデータの活かし方

 データを用いた「可視化される能力」は、現代野球では個々の技術向上やチームの戦略において大きな役割を担っている。ただ、単なるデータ偏重ではなく、その活用法が極めて大事だ。現役19年間のプロ生活を経て、現在は社会人野球チームのマルハン北日本カンパニー(宮城県)の監督を務める館山昌平氏は、ラプソード投球スペシャルアドバイザーの肩書も持つ。「データは答え合わせとして使う」と語る館山氏が考える正しい活用法とは何か。

 情報過多の現代において、盛んに「データ」の重要性が語られる。その中で、たとえば「子どもの練習に数値データを取り入れるべきか?」、それとも「感覚重視の練習が大事?」といった疑問を抱く野球の指導者や保護者も多いのではないだろうか。2009年に最多勝に輝くなどNPB通算85勝をマークし、子どもたちの指導経験もある館山氏は言う。

「小中学生が成長する中で、エラーは起こりやすいものです」

 館山氏がいう「エラー」とは、投球動作の不一致。上肢と下肢のバランスの崩れ。投球フォームは綺麗で制球力があっても回転効率の低いボールを投げるなど、正しい体の使い方ができていなかったり、備え持った能力を活かしきれていないケースが多いようだ。「どんな投げ方でもいいんですが、投げる瞬間に、しっかりと(動作と感覚が)合っていなければいけない。感覚を合わせる作業としてデータを活用します」とも館山氏は語る。

 データ活用と言えば、動画もその一つだが、館山氏はそこにある“落とし穴”を語る。

「誰もが携帯電話で動画を撮れる時代になって、綺麗なスイングや、いい投球フォームが自分のやりたいフォームになっちゃっているんですね。相手(打者)を抑えるためにとか、結果がどうだったかというところにフォーカスせずに、いい形だけを求め過ぎている」

 YouTubeで、投球フォームやトレーニング法を紹介する動画では再生数が多いものこそが「いい教えになって怪我のリスクがある方向にいってしまう」とも警告する。ただ、動画を撮影すること自体は推奨しながら、そこでは「感覚」が大事だと館山氏は言う。

「我々のチームでも、どんどんと動画は撮っていけと言っています。定点カメラでずっと撮っていくことによって、自分の成長の記録にもなる。大事なのは感覚を優先して撮ること」

 たとえば、いいボールを投げられたら一度、録画を止める。投げる感覚のよかった1球に対して、映像に残す価値はあるのだという。自分のいい感覚を再確認して、そのメカニックを紐解く映像の撮り方。感覚がいい、あるいは怪我のリスクがないということを練習で確認した上で、実戦でのパフォーマンスにつなげる。つまりは、「データの照合」が大切なわけだ。

「相手で試す前にデータでわかる」と館山氏【写真:小林靖】
「相手で試す前にデータでわかる」と館山氏【写真:小林靖】

パフォーマンスアップには「答え合わせ」が大切

 データを使ってそれぞれの投手が自分の特徴を理解して、相手にどう見られているのかを認識することも大切な要素。「相手で試す前にデータでわかるというのが現代野球なのかと思います」と館山氏は言う。

 かつての野球では、まずは捕手が捕れるボールが評価されていた。だが、今はデータを通して捕手が捕れないボールでも評価してもらえる。テレビ朝日「GET SPORTS」(毎週日曜深夜1時55分、関東地区)で「データと現代野球」をテーマにしたときも館山氏は語ったものだが、ピッチングにおける評価の違いは変わってきた。

「たとえコントロールがバラバラでも、思い切って腕を振る。変化の仕方を掴んでしまえば、次にストライクゾーンに投げる作業となる」

 そう語る館山氏は、投球での一つ一つのボールは現代のほうが「色濃い」と表現する。

「濃ければ、三振を取れるボールも増えてくる。自分のアームアングルから想像もできないような特殊球を投げるようなピッチャーが今、すごく活躍している」

 データが示すストレートの回転効率と回転軸を理解しながら、たとえばスライダーでも、どちらの方向に伸ばす方がいいのか。スリークオーターのアームアングルの投手なら、スイーパーのように真横に滑る方に可能性があるのか。あるいは、縦スラ系になるのか。投球の「伸び」や「可能性」がどこにあるのかを見極められる。そのことも把握してデータと感覚のバランスを保ち、投球のパフォーマンスを上げる。

 データの役割は、怪我のリスクを防ぐ意味合いもありながら、練習と実戦をつなぐ「答え合わせ」。可視化した能力をいかに実戦につなげることができるかが大切なのではないだろうか。

(佐々木亨 / Toru Sasaki)

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