160km出る今井は「調子が悪い」 衝撃の初対面「マグマが潜んでる」…恩師語る“進化の理由”

西武・今井達也【写真:小林靖】
西武・今井達也【写真:小林靖】

トレーナーが語る…今井達也が160キロを投げられるワケ

 西武の今井達也投手が、球界を代表する投手になりつつある。24日のロッテ戦では、自己最速を更新する160キロをマーク。今季はここまで防御率0.65と抜群の成績を誇る。近年はどこか軽く投げているように見えるフォームながら、球速は年々上昇。今井が師事するアスリートコンサルタント・鴻江寿治(こうのえ・ひさお)氏は「160キロ出ているということは、調子が悪いんじゃないですかね」と独自の目線で分析する。

 今井は昨年は最多奪三振のタイトルを手にし、今季も規定到達者では両リーグ唯一の防御率0点台と無双している。プロ入り後はさまざまなフォームに挑戦。“たどり着いた”といえるのが、2022年オフから取り組む「鴻江理論」を基にした現在のフォームだ。

 鴻江理論とは、骨盤の開きの左右差を基に、人の体を猫背型の「うで体」(うでからだ)と反り腰型の「あし体」(あしからだ)の2タイプに分類し、それぞれのタイプに適したトレーニングや、体の使い方をするというもので、今井は「あし体」タイプ。2022年オフから鴻江の自主トレに参加し、実践3年目となる今季は「だいぶ仕上がってきましたね」と“師匠”は頷く。

 うで体タイプは、腕から動き出すと動きがスムーズで、あし体タイプは、足から動き始めると動きがスムーズになる。今井は投球時、セットポジションから左足を引き、体重を溜める。あし体の選手は、三塁から一塁方向への動きによって力を溜めやすく、今季はより一層、セットポジションから左足を一塁方向へ下げて力を溜める“準備”ができるようになっていると見る。

初対面で受けた衝撃「ただものじゃないなと」

 鴻江氏は松坂大輔、千賀滉大投手らに加え、野球選手以外にも多くのアスリートを指導してきた。2022年の夏、西武の選手の紹介で初めて今井と会った際に、肩甲骨や背中を見て衝撃を受けた。「彼の肩甲骨は凄いエネルギーに満ち溢れていて、マグマが潜んでいる。ただものじゃないなと」。しかし、制球良く投げるために「その力を抑え込んでいる感じがした。制御の仕方さえ教えれば、楽しく自由に野球ができると思った」と振り返る。

 同年のオフに自主トレに初参加。「彼は頭もいい。野球のことを凄く考えていて、もう私よりも体の使い方に詳しいんじゃないかというくらいです」。体重移動や力の入れ方など、自分に合った体の使い方を学び、取り入れると、成績とボールはみるみる向上していった。

 ステップ幅が狭く、力を抜いているように見えるフォームから、軽く投げているように見えるのも今井の特徴だ。「今井の場合は背筋と足を使って、ムチやでんでん太鼓のようにそれに腕がついてきているだけ。だから脱力しているように見えるんです」。自らの体に合ったフォームのため、故障のリスクも低く、長いイニングを投げられる。「スムーズなフォームで投げれば、体には何の負担もない。今の状態で160キロが出るようになると、それは力んでいると思います」。

 スピードは球界屈指で、今年は3月上旬ながらオランダ戦で158キロをマーク。そしてシーズンに入り160キロを記録した。「調子が悪い時ほどスピードは出ると思う。こないだの試合(ロッテ戦)は良くなかったと思いますね。スムーズな投げ方が出来た時は156キロくらいで、そっちのほうが質がいい。160キロ出たから『凄いね』と彼に言うつもりはないですし、逆に体は大丈夫? って私は思ってしまいます」。それでも8回1失点の投球をしてしまうのだから、恐ろしい。

 もちろん打者あっての投球結果だが、いかに納得のいくフォームで、効果的な出力が出来るかを、常に考えているという。「三振を取っても首を傾げたりするのは、そういうのを常に考えているからだと思いますね」。このまま投球を重ねていけば「年内にはあと2、3キロ上がると思いますよ」と鴻江氏。序盤戦で圧倒的な投球を見せている今井は、シーズン中も成熟し続ける。

(上野明洸 / Akihiro Ueno)

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