西武を変えた西口監督の“寄り添う姿” 選手も証言、コーチも「差された」対話術

西武・西口文也監督【写真:小池義弘】
西武・西口文也監督【写真:小池義弘】

降板する投手と肩を並べてベンチへ「しっかり投げろよと…」

 昨季は球団ワースト記録の91敗を喫し、首位に42ゲームの大差をつけられて最下位に終わった西武が一変している。今季は29日現在、首位の日本ハムへわずか1ゲーム差の3位。就任1年目の西口文也監督には、ユニークなマネジメント術が垣間見える。

 29日に本拠地ベルーナドームで行われた楽天戦の8回の守り。7回から登板していた2番手の左腕・佐藤隼輔投手が先頭の小深田大翔内野手に四球を与えると、西口監督は三塁側ベンチを出て、ゆっくりマウンドへ歩を進めた。交代を告げ、3番手の田村伊知郎投手にひと声かけると、佐藤と肩を並べてベンチへ戻ってきた。その途中、指揮官は何事か佐藤に語りかけ、2人の表情には笑顔も浮かんでいた。プロ野球ではあまりお目にかかれない、和やかなシーンだった。

「8回は、打たれても抑えても左打者の小深田1人で代えるつもりでした。(佐藤隼には)『しっかり投げろよ』と言いましたよ」と苦笑した西口監督。「先発投手を代える時にも、(マウンドからベンチへ)僕は一緒に帰ってきていますよ」と事もなげだが、熊代聖人外野守備走塁コーチは「ああやって選手と細かくコミュニケーションを取るのが西口監督らしいところ。僕らも指導者として見習わないといけませんね」と感嘆した。

 また、投手出身の監督の中には、野手に関してコーチに任せきりにする人もいるが、西口監督の場合、攻撃でも独自のスタイルがうかがえる。前日(28日)の同カードで、7年目の牧野翔矢捕手を突然、プロ入り後初のクリーンアップ(3番・指名打者)に抜擢したのも、その一例。熊代コーチは「正直言って、3番牧野には僕も差され(驚かされ)ました。ただ、そういう時の西口監督は、鳥越(裕介ヘッドコーチ)さんや仁志(敏久野手チーフ兼打撃コーチ)に考えを伝え、相談した上で行っていると思います」と指摘する。

周囲を驚かせた牧野の3番抜擢「投手、野手の区別なく声をかけてくれる」

 西口監督は昨季まで3年間、ファーム監督として経験を積んだ。牧野が2022年に開幕1軍入りを果たしながら、トミー・ジョン手術を受けて育成選手となり、苦労の末に昨年6月、支配下登録に復帰するまでを見守り、寄り添ってきた。

 初回には先制点につながる四球を選び、6回には先頭打者として追加点につながる左前打を放って期待に応えた牧野は、「西口監督からはよく『おまえは試合になると振り過ぎるんだよ。練習通りに行けよ』とか声をかけていただいています。投手、野手の区別なく、細かくコミュニケーションを取ってくれる監督だと思います」と語る。至るところで、“対話”の細かさが際立つ。

“本職”と言える投手起用もユニークだ。今季は好調な投手が多いこともあって、今井達也投手、隅田知一郎投手、武内夏暉投手、高橋光成投手、渡邉勇太朗投手、與座海人投手、菅井信也投手で“先発ローテ7人制”を敷いている。「今井、隅田あたりにはしっかり(中6日で)回ってもらって、それ以外の投手は休ませながらとか、うまく調子を見ながら使っていこうかなと思っています」と西口監督は説明する。

「セ・パ交流戦が開幕する時に、どういう順位につけていられるか。残り2試合の戦いが大事になってくると思います」。上々のスタートを切った指揮官は、冷静にシーズンの展開を読んでいる。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY