山岡泰輔に見る進化「ゼロで帰ってくるだけ」 約1か月の離脱…投手コーチが決めた“配置転換”の理由

9年目の山岡が“新たな”働き場所で見せる進化
過去に違法とされるオンラインカジノを利用したとして活動を自粛していたオリックス・山岡泰輔投手が1軍に合流して約1か月。登板を重ねるたびに調子を上げている。
「もうゼロに抑えて帰ってくるだけですね。少しでもチームのために投げることができれば。充実ですか? してますよ、もちろん」。山岡が静かな口調の中に思いを込めた。
先発からセットアッパーに配置転換して迎えた9年目。ただでさえ難しいシーズンだったが、問題が明るみに出たことで春季キャンプを中盤で打ち切り、約1か月間、活動自粛を余儀なくされた。
4月4日の独立リーグとの交流戦で復帰。「とにかく(試合で)投げること。遅れているので」と危機感を募らせ、ウエスタン・リーグなどで10試合に登板して実戦感覚を磨き、5月5日に1軍合流するところまで仕上げた。5月に登板した6試合では、3戦目に1失点、4戦目に2失点とピリッとしなかったが、登板を重ねるごとに徐々に調子を上げてきた。
5月25日のソフトバンク戦(鹿児島)では、前日の雨でグラウンド状況が悪い中、2番手で登板し、1回を打者3人、8球で仕留め、672日ぶりの白星をつかんだ。
圧巻だったのは、5月31日の西武戦(ほっともっと)。2‐2で迎えた延長10回1死一、三塁から登板し、3番の長谷川信哉外野手を“伝家の宝刀”の縦のスライダーとチェンジアップを駆使し、空振り三振。4番のタイラー・ネビン外野手にはチェンジアップに140キロ前半のストレートを交え、最後はボールになる縦のスライダーを振らせて、2者連続三振でピンチを切り抜けた。
「三振を狙って取ったわけではなく、結果として三振になったという感じです。(同点の10回1死一、三塁という)一番、きつい場面ですから。チームとしてもない方がいいし、あんな場面が増えるとちょっと困ります」。苦笑いしながらも、先発、中継ぎで培った経験と打者を翻弄する技術を駆使した投球に、ちょっぴり胸を張った。
「(体の中の)エンジンは変えられませんが、経験を重ねることでそこに上手さが加わっています。その技術で左右(の打者)関係なく1イニングを任せたいと思っています。昨年、何もできなかった(山岡)泰輔に、勝負ができるんだという目標を作ってあげたかったのです。それが一番の理由です」とセットアッパー転向を決めた厚澤和幸投手コーチは話す。
「先発は先発の、中継ぎには中継ぎの難しさがあります」という山岡が、最も大事にしているのは気持ちの作り方だという。「先発とは、スイッチの入り方が違うんです。(ブルペンで)高めるのではなく、高まるんです」。クールな男が働き場所を得て、静かに燃えている。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)
