西武はなぜ阪神にサヨナラできた? 西口監督の“セオリー無視”、コーチも驚いた一手

2点ビハインドの9回に源田が同点2点打、炭谷が決勝打
■西武 3ー2 阪神(11日・ベルーナドーム)
西武は11日、本拠地ベルーナドームで行われた阪神戦で、0-2とリードされて迎えた9回に3点を奪い劇的な逆転サヨナラ勝ち。パ・リーグ4位から一気に2位へ浮上した。球団ワースト記録の91敗を喫して最下位に沈んだ昨季とは一変し、就任1年目の西口文也監督の采配の下で“ミラクル”な強さを発揮している。
「本当にね、選手たちが集中力を切らさずにやってくれた結果ではないですかね。みんなが最後の最後まで集中して、いい打席を送ってくれたと思います」。西口監督は淡々とした口調で、それでも実感を込めて試合を振り返った。
9回の攻撃ではまず、阪神3番手の湯浅京己投手が制球を乱したのにつけこみ、1死満塁の好機をつくる。ここでマウンドに上がった守護神・岩崎優投手から、源田壮亮内野手が右前へ起死回生の同点2点適時打を放った。さらに2死満塁と詰め寄り、最後は途中出場の炭谷銀仁朗捕手がカウント1-2と追い込まれながら、右前へ適時打を運び決着をつけたのだった。
「(炭谷は岩崎に)相性がいいと聞いていて、淡い期待をしながらも、追い込まれた時点で諦めが入っていたのですが、しぶとく、よく打ってくれました」。ベテランの炭谷に対する西口監督の“イジリ”も冴えて、会見場は笑いに包まれた。
前日(10日)の同カードでも、2点ビハインドの8回に4点を奪い逆転勝ちしたばかり。2試合続けて、ドラマチックに試合をモノにした。西武は交流戦8試合を消化し、12球団で唯一本塁打が「0」(11日現在、以下同)。一発長打には欠けるが、ここぞの場面で打線がつながり勝機を見出している。
2回には“重盗崩れ”も「2対1、3対1の状況をつくって点を取っていく」
実はこの日の逆転劇の予兆は、0-1で迎えた8回の攻撃にもあった。阪神先発で3安打無失点に抑えていた伊藤将司投手に対し、1死から7番・長谷川信哉外野手が左前打を放って出塁すると、西口監督は続く8番・蛭間拓哉外野手に送りバントを命じ、2死二塁の1打同点機をつくった。得点圏に走者を送ったとはいえ、終盤の8回に至って、わざわざツーアウト目を献上する作戦はリスクが高いようにも思えたが、西口監督はここで9番・古賀悠斗捕手の代打として中村剛也内野手をコール。中村は申告敬遠で歩かされたが、今季リーグ最多の64安打を量産している1番・西川愛也外野手に期待をつないだ。
西口監督は「ただ8番、9番に期待するより、蛭間が走者を二塁に送り、9番の所に代打を出した方が、1点を取りにいくにはいいだろうと思いました」と説明。鳥越裕介ヘッドコーチは「“セオリー”ではないと思います。監督は中村を代打に送り、歩かされたら西川に任せるところまで考えた上で、勝負に出たのだと思います。監督はああいうのが好きみたいですね」と指揮官の“勝負師魂”に感嘆した。
結局西川は二ゴロに倒れ、この回は無得点に終わったが、西口監督の采配が「0」行進の打線に刺激を与え、9回の逆転劇につながったのではないだろうか。
振り返ってみれば、両チーム無得点で迎えた2回の攻撃でも“動き”があった。2死一、三塁で、打者・蛭間のカウントは2-1。投手の伊藤将が一塁へ牽制球を投じた瞬間、一塁走者の長谷川が二塁へ向かってスタートを切った。長谷川が一、二塁間に挟まれると、三塁走者の源田がスルスルと本塁へ向かって走る。ボールは一塁手→遊撃手→一塁手→三塁手→捕手→三塁手と目まぐるしく転送され、最終的に源田がタッチアウトとなったが、相手の守備陣を大いに揺さぶった。
熊代聖人外野守備走塁コーチは「あの場面に関して言えば、“重盗崩れ”のような結果になってしまい、打者有利のカウントでもあったので、われわれが長谷川に“走るな”というサインを送るべきだったかなと思います」と反省。その上で「打者が投手と1対1で対峙して点を取るのは難しい。それなら、走者を含めて2対1、3対1の状況をつくって点を取っていこう、という話を普段から選手たちにしていますし、今季はそういう意識が徹底されつつあると思っています」と手応えも口にした。
強力な投手陣が、昨季最下位チームの健闘の原動力であることは間違いない。しかし“貧打”といわれながらも、あの手この手で点を取りにいく西口ライオンズの姿勢が、昨季と大きく異なるムードを醸成していると言えそうだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
