「なんでやめた?」の一言が生んだプロ初勝利 寺西成騎の背中押した2軍監督の言葉

オリックス・寺西成騎【写真:北野正樹】
オリックス・寺西成騎【写真:北野正樹】

オリックス・寺西の初勝利を呼んだ2軍指揮官の“言葉”

 思いがけない言葉が、活路を開いた。オリックスのドラフト2位・寺西成騎投手が風呂場で聞いた波留敏夫2軍監督の一言で、本来の投球を取り戻し、プロ初勝利を挙げることができた。「いきなり『なんで2段モーションをやめたんや』と聞かれて。なんと返事したかも忘れたんですが、ずっとやってきたフォームに戻そうと思いました」。寺西が背筋を伸ばし“運命の日”を思い出した。

 寺西は星稜高、日体大から2024年ドラフト2位でオリックスに入団。3月8日の巨人とのオープン戦(京セラドーム)で2回を30球、被安打3、無失点で先発デビューを果たし、ウエスタン・リーグで経験を積んでいた。

 波留監督から声を掛けられたのは、5月下旬。大阪・舞洲の球団施設だった。湯船に入ってきた指揮官に、2段モーションをやめた理由を尋ねられた。「監督がそんなところまで見てくださっているとは思ってもいませんでしたから、答えを持ち合わせておらず、しどろもどろになってしまって」と寺西は苦笑する。

 余計な動作をなくそうと始めた新しいフォームだったが、結果は伴わなかった。4月12日のウエスタン・リーグのソフトバンク戦(京セラドーム)で5回を4失点。1週間後の同カード(タマスタ筑後)では5回を7失点と不調に陥っていた。

波留2軍監督「何も悪いところがないのに、なんで変えるのかな」

 そんな時に聞いた監督の言葉に、「ずっと2段モーションを続けてきたから、ここまでくることができたんだと気付きました」。2段モーションに戻したことで出力が上がり、5月15日の日本ハム戦(エスコンフィールド)のプロ初先発初登板につなげることができた。

「出力が上がっていなかったので気になって、ピッチングコーチとも話していたんです。何も悪いところがないのに、なんで変えるのかなって。ちょっと(フォームの)無駄が多いという返事だったのですが、ええもんを持っているからプロに入ってきてるんやから、それを変えてまでやる段階じゃないだろうと。変えるのは壁にぶつかった時で良いといいました」と波留2軍監督は説明する。

「教えたくなってしまうから」と練習中は外野に立ちっぱなしで、選手の動きだけでなく、コーチの指導にも目を配る。「ピッチャーのことはよくわかりません」と言いながらも、映像やデータを入念にチェックしているからこそ、選手のフォームやコンディションなどの変化も見逃さない。

「波留さんの言葉が、野球人生の分岐点になるような気がします」と語った4日後、寺西は小中高の先輩で憧れる松井秀喜さんが所属した巨人戦(京セラドーム)でプロ初勝利を挙げた。

「ピンチはありましたが、粘ることができました。チャンスをくださった首脳陣の方々やファームの指導者の方々に、またアピールして2勝目をつかめるように取り組んでいきたいと思います」と寺西。真面目な性格そのままのコメントに、指導者への感謝の思いも込められていた。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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