藤川球児から「2軍慣れするなよ」 元阪神捕手が覚えた“恐怖”…忘れぬ苦い記憶「全然やで」

現役時代の阪神・藤川球児(左)と狩野恵輔氏【写真提供:産経新聞社】
現役時代の阪神・藤川球児(左)と狩野恵輔氏【写真提供:産経新聞社】

元阪神・狩野恵輔氏に金言「2軍慣れするなよ」

 元阪神捕手の狩野恵輔氏(野球評論家)は2000年ドラフト3位で群馬県立前橋工から虎の一員となったが、最初の3年間は2軍生活が続いた。そこで、師匠である吉田康夫コーチに出会えたことが大きかったが、そんな下積み期間にはいろんなこともあった。苦しいこと、つらいことも多かったが、そんな中での藤川球児投手からの熱い言葉、岡田彰布2軍監督からの配慮は特に忘れられないという。

 師匠の吉田コーチに支えられ、狩野氏は2軍で練習に精を出した。「1年目にある先輩から『お前、高卒で4年目くらいに出られればいいやろって思っているやろ』と言われて『はい』と答えたら『そんなヤツ、全部やめていくわ、高卒でも1年目から必死になって頑張っているヤツが4年かかるねん。だから1年目から出ようとせんとアカン』って。それは覚えています。僕は全然勘違いしていたと思って、そういうふうな気持ちでやりました」。

 1998年ドラフト1位右腕で、狩野氏より2歳年上の藤川からもありがたい言葉をもらったという。「『絶対、お前、2軍慣れするなよ。2軍慣れしたら終わるぞ、2軍にいて普通と思ったら終わるから、常に1軍のことを考えて練習しないといけない』と言われました。球児さんとは福原(忍)さんの自主トレで一緒に行かせてもらったりもしたんですが、いろいろ話もしてもらいました。怖かったですけどね」。

 まだ藤川が1軍に定着していない頃だが、苦い思い出もあるという。「その時の(2軍の)主(の捕手)は中谷(仁)さんで、僕は球児さんと全然バッテリーを組ませてもらえなかったんです。それが、ファームで球児さんの防御率かなんかのタイトルがかかっている試合で中谷さんが1軍に行っちゃって、僕がキャッチャーをやったんです。2回か3回をゼロに抑えればタイトルだったのに、いきなり初回に点を取られて、それがなくなっちゃったんです」。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。「そういうこともあったので、球児さんには“お前はまだ、キャッチャーなんて全然やで”って言われている感じでもあったんですよ」。そんな藤川からのひと言、ひと言が狩野氏には財産になった。それこそ、くじけそうになった時や、うまく行かない時、何かスムーズではないと思える時に自然と思い出された。「球児さんが言っていた2軍慣れってこういうことか、とかね」。

元阪神・狩野恵輔氏【写真:山口真司】
元阪神・狩野恵輔氏【写真:山口真司】

岡田彰布2軍監督の配慮…難病のおじに見せたプレー

 当時の岡田2軍監督にも狩野氏はとても感謝している。技術指導はもちろんのこと、野球に対する考え方など、勉強になることばかりだったそうだ。さらにこんなこともあったという。「秋の(教育リーグの)コスモスリーグの(ヤクルト2軍本拠地の)戸田(球場)での試合を僕のおじが見にきていたんです。難病のため車椅子で、もう動ける最後くらいだったんですが、僕のプレーを見たいってことでね」。その時のことだ。

「わがままを言わせてもらって、僕はコーチに『今日は1打席でも1球でもいいので立たせてください』とお願いしたんです。ところが1回表が始まったくらいに大雨になって、表だけでもう試合中止の雰囲気。そしたら岡田さんが雨の中、向こうのベンチに行って、戻ってきて『裏やるぞ、おい狩野、外野に行け』って。で、裏までやって終わり。ベンチに帰ってきたら岡田さんにボールを渡されて『これ、おじさんにあげて来い』って」

 岡田2軍監督は狩野氏の事情をコーチから聞いていたのだろう。ヤクルト球団と交渉して、あと半イニングだけ試合を続行してくれたわけだ。「打席には入れなかったけど、おじに僕が出たのを見せることができて、ボールも渡しました。おじはその後、亡くなったんですが、あの時は喜んでくれました」と狩野氏はしみじみと話した。「岡田さんは愛情があるなって思いました。ヤクルトの方々にも感謝です」。

 野球には厳しい岡田監督だが、狩野氏は「優しいんですよ」とも証言した。「ファームの試合がCSとかで中継されるとスタメンを若手にするんです。『遠くのお父ちゃん、お母ちゃんも見られるだろ』って、試合に出すんですよ。昔はCSで年間に2軍の試合が10試合ないくらいですけど、放送していたんでね。優勝を争っていたら別ですけど、そうじゃなければ、最初の方は若手中心で行くんですよ」。

 それも若手時代の思い出。「岡田さんには何回も怒られたことがありましたけど、愛情があった中で怒られたんだなぁって思っていました」。現在、阪神を指揮する藤川監督と2023年に阪神を日本一に導いた岡田監督。狩野氏にとって、阪神に入団してすぐに、そんな2人に出会えたこともまた、かけがえのないものになっている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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