前日に突如宣告「嘘でしょ」 “緊急先発”の舞台裏…オリ東松快征を支えた先輩からの心得

7月26日ソフトバンク戦で先発予定だった曽谷が回避し急遽抜擢
オリックスの2年目左腕、東松快征投手が突然の先発起用を無難にこなし、メジャーに続く新たな扉を開いた。「投げる前はヤバかったんですが、投げ終わったら楽しくて。これが本当のプロの世界なんだ、と思いました。人生が変わった日になりました」と目を見開いた。
東松は、享栄高から2023年ドラフト3位で入団。1年目はウエスタン・リーグで7試合に出場し0勝3敗。2年目は春季キャンプで主力のA組に抜擢された。2軍では先発、中継ぎで13試合に登板し、2勝2敗、防御率2.06。1軍昇格の7月19日に、中継ぎでプロ初登板を果たした。
2度目の登板は、突然やってきた。7月26日のみずほPayPayドームでのソフトバンク戦の試合前、厚澤和幸投手コーチから「東松、明日、先発な」と声を掛けられた。「厚澤コーチは冗談をよく言う面白い人なんで、『噓でしょ』としか思いませんでした。その後に比嘉(幹貴投手)コーチから『100%、先発だから。準備しろよ』と言われたんですが、まだ半信半疑でした」と東松。登板予定の曽谷龍平投手がコンディション不良で登板回避することを知らなかったため、練習中に野手から「明日、頑張れよ」と言われて、初めて事態の重要さに気付いたという。
ホテルに帰ってノートに対戦する選手のデータなどを書き込み、頭を整理して準備をしたが、心を落ち着かせてくれたのは、同じ左腕の宮城大弥投手と田嶋大樹投手から授かっていた「先発の心得」だったという。宮城からは、6回自責点3以下のクオリティスタートへの意識、田嶋からは力感や楽しみながら投げることの効用を学んだ。
2回に3連打で1点を失ったが、その後の1死満塁を一ゴロ、二ゴロでピンチを断った裏には、その2人のアドバイスが生きたという。「走者を出すと1点もやりたくないと思ってカウントを悪くして苦しいピッチングになってしまっていたのですが、二人のアドバイスを思い出して最少失点でしのぐことができました。すごい先輩でよかったです」と感謝する東松。
初先発は4回1死二、三塁で才木海翔投手に救援を仰ぎ、63球、被安打5、2奪三振、2四球、1失点と、“緊急登板”を無難にこなして終わった。151キロのストレートと右打者の膝元に食い込むスライダー、鋭く落ちるフォークは相手打者を苦しめ、山川穂高内野手からはフォークで空振り三振を奪った。
「収穫と課題では、収穫の部分の方が大きかった」と振り返る東松だが、手放しに喜んではいない。「宮城さんからも『ナイスピー』と言ってもらい、いろんな方から『よくやった』と言ってもらっていますが、マウンドに立った以上、チームを勝たせるのが先発の役目。ここで満足していたら、それ以上はありません」と口元を引き締めた。
「これが本当のプロの世界なんだと感じました。投げていて楽しかったし、あの舞台で勝ちたいですね」。プロ入り時の目標に、メジャーの最も優れた先発投手に贈られるサイヤング賞を挙げた。「ちょっとだけ、近づきましたね」。夢への扉が開いた。
〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)