「想像していなかった」FA移籍の真相 14年在籍で引き留めも…感じられなかった“誠意”

楽天入団会見に出席した今江敏晃氏【写真提供:産経新聞社】
楽天入団会見に出席した今江敏晃氏【写真提供:産経新聞社】

ロッテで14年間過ごした今江敏晃氏は2015年オフに楽天にFA移籍

 ロッテで2005年と2010年に日本シリーズMVPに輝いた今江敏晃氏は、2015年オフに海外フリーエージェント(FA)権を行使して楽天へ移籍した。2013年にはFA権を行使せず2年契約で残留しており、「ロッテというチームを離れるのは正直、想像していなかった。本当は残れるのがベストでしたよ」という中での決断だった。

 2013年は開幕から苦しみながらも見事な復活を遂げ、最終的には首位打者争いを繰り広げるなど打率.325の好成績をマークし、新たに2年契約を締結した。しかし2014年は120試合、2015年は98試合出場と、長い間守ってきた絶対的なレギュラーの座から少しずつ離れていった。

「その2年間で結構大きな変化がありました。もちろんロッテへの愛着はものすごくありますし、育てていただいて感謝していました。ただ自分としてもチームとしても変わりつつあったし、自分もちょっとくすぶっていたというか、このままではダメだなという思いもあった。一歩踏み出して、違う環境でやったほうがいいんじゃないかなという決断でした」

 PL学園高から2001年ドラフト3巡目で入団して14年間を過ごした。ベストナインやゴールデングラブ賞にも輝き、主将も務めた。“千葉の顔”でもあった今江氏に対して、もちろん球団側は引き留めたが「思っているほどではなかったのが現実です」と明かす。また当時のロッテは宣言残留を認めておらず、行使を決断した時点でロッテとの“決別”が決まった。

インタビューに応じた今江敏晃氏【写真:町田利衣】
インタビューに応じた今江敏晃氏【写真:町田利衣】

32歳で人生初ひとり暮らし、活きたPL時代の経験「炊事洗濯、要領よく」

 楽天は当時球団社長を務めていた立花陽三氏が熱心に誘ってくれた。「若い社長さんで距離感が近く感じて、一緒にやってみたいなという気持ちにさせてくれた。優しいだけでなくはっきり言うところもある。僕にとって新鮮でした」。またロッテは2013年にクライマックスシリーズ(CS)で楽天に敗れており、チームの一体感や勢いも肌で感じていた。PL学園高の先輩にあたる松井稼頭央氏とプレーすることにも憧れていた。さらに「一番の理由」に挙げたのが、東北への思いだった。

 2011年の東日本大震災により、東北地方は甚大な被害を受けた。当時千葉県内に住んでいた今江氏も床上浸水などがあり、一時寮に住ませてもらう経験もした。「人生であんな衝撃的なニュースを見たことがなかった。今まで周りに支えてもらって野球選手を続けられていたので、自分が少しでも力になりたい」と毎年、福島県いわき市を訪問していた。縁がある東北のチームからの誘いに「自分のためより人のために頑張ろう」と楽天入りを決めた。

 高卒3年目で結婚した今江氏にとって、楽天移籍と同時に32歳にして初めてのひとり暮らしが始まった。「炊事洗濯は要領よく、苦労は全くしなかったです。高校時代の経験が活きましたね」と笑う。休日は選手同士で釣りへ出かけることも。「ロッテも仲はよかったですけど、(楽天は)選手同士の仲の良さの度合いがすごかったですね。誕生日プレゼントを渡し合ったり。そういうのもいいなあって思いましたよ」と移籍して感じた驚きを口にした。

 結果的に2球団に在籍したことを「財産だと思います。チームカラーも違うし、いろいろな人とご縁をいただける。今思うと、もっといろいろな球団に行った選手が羨ましいくらいです」と語る。しかし3年契約で挑んだ楽天生活は、苦しいものとなった。

(町田利衣 / Rie Machida)

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